疾患解説
フリガナ | ゼンシンセイコウカショウ/キョウヒショウ |
別名 |
全身性強皮症 強皮症 |
臓器区分 | 膠原病・免疫疾患 |
英疾患名 | Systemic Sclerosis/Scleroderma(SSc) |
ICD10 | M34.9 |
疾患の概念 | 全身の結合組織の炎症と増生を基盤として、皮膚、関節、内臓のびまん性線維化、変性と血管異常を特徴とする原因不明の疾患で、広汎性皮膚硬化型、限局性皮膚硬化型、オーバーラップ型の3型に分けられる。20~50歳の女性に好発し、混合性結合組織病の一部として発症することもある。免疫学的機序および特定のHLAサブタイプが関係する遺伝が発症に関与している。SSc様の症候群は、塩化ビニル、ブレオマイシン、ペンタゾシン、エポキシ樹脂および芳香族炭化水素、汚染したナタネ油またはL-トリプトファンの曝露で発症することがある。この疾患は、血管の損傷と線維芽細胞の活性化が関与し、様々な組織のコラーゲンやその他の細胞外タンパクが過剰産生される。皮膚は、表皮の菲薄化、表皮突起の喪失および皮膚付属器の萎縮がみられ、T細胞が蓄積することがあり、皮膚および皮下の層に広範囲の線維化が起こる。また、四肢では、滑膜、滑膜表面、関節周囲の軟部組織に慢性炎症と線維化が見られる。食道の運動が損なわれ、下部食道括約筋が機能不全を来し、腸管の粘膜筋板の変性による結腸と回腸に仮性憩室形成がみられることがある。SScの重症度と進行は、急速に進行し、しばしば致死的となる内臓障害を伴う全身的な皮膚肥厚から、孤立した皮膚病変、および数十年に亘る緩徐な進行の後に内臓疾患が発症する場合まで様々である。 |
診断の手掛 |
最も一般的な初期症状は、レイノー現象および徐々に進行する手指の皮膚の肥厚を伴う四肢遠位部の潜行性の腫脹であるが、原因不明のレイノー現象、多発性関節痛、嚥下障害、胸焼けなどを訴える患者を診た場合に本症を疑う。20~40歳代の女性に多く見られ、男性の4倍の発症率といわれている。 【診断基準:2010年強皮症における病因解明と根治的治療法の開発班】 大基準:手指あるいは足指を超える皮膚硬化。 小基準:1.手指あるいは足指に限局する皮膚硬化 2.手指先端の陥凹性瘢痕あるいは指腹の萎縮 3.両側性の肺基底部線維症 4.抗トポイソメラーゼ抗体(抗Scl70抗体)、抗セントロメア抗体または抗RNAポリメラーゼⅢ抗体陽性。 *大基準を満たす場合、あるいは、小基準の1及び2~4の1項目を満たす場合。 *手指の所見は循環障害による、外傷などによるものを除く。 *限局性強皮症を除外する。 |
主訴 |
息切れ|Shortness of breath/Breathlessness 嚥下障害|Dysphagia 乾性咳|Dry cough 関節痛|Arthralgia 筋力低下|Weakness 高血圧|Hypertension 色素脱出|Achromia/Depigmentation 色素沈着|Pigmentation/Chromatosis 咳|Cough 痰|Sputum 皮膚硬化|Sclerema 腹痛|Abdominal pain 腹部膨隆|Abdominal swelling/Gastromegaly 浮腫|Edema/Dropsy 便秘|Constipation 胸焼け|Heartbum/Pyrosis レイノー現象|Raynaud phenomenon 労作時息切れ|Dyspnea on exertion |
鑑別疾患 |
アミロイドーシス|Amyloidosis カルチノイド症候群|Carcinoid Syndrome Crow-フカセ症候群 憩室炎|Diverticulitis 原発性肺高血圧症|Primary Pulmonary Hypertension 好酸球性筋膜炎|Eosinophilic Fasciitis 心膜炎 肺高血圧症 肺線維症 ポルフィリン症 限局性強皮症 関節リウマチ|Rheumatoid Arthritis 混合性結合組織病|Mixed Connective Tissue Disease(MCTD) Raynaud病 |
スクリーニング検査 | Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B] |
異常値を示す検査 |
Adenosine Deaminase|アデノシンデアミナーゼ [/S] Amino-terminal Propeptide of Type III Procollagen [/S] Anti-Endothelial Cell Antibodies|抗内皮細胞抗体 [/S] Anti-Entactin Antibodies [/S] Anti-Ku Antibodies|抗Ku抗体 [/S] Anti-RNA Polymerase Antibody|抗RNAポリメラーゼ抗体/抗RNAポリメラーゼIII抗体 [/S] Anti-Scl-70 Antibodies|抗Scl-70抗体/抗DNAトポイソメラーゼI抗体 [/S] Anti-Th RNP Antibodies [/S] Anti-U1RNP Antibodies|抗U1-RNP抗体/抗RNP抗体 [/S] Anti-U3 RNP [/S] Anticardiolipin Antibodies|抗リン脂質抗体/抗PL抗体/抗カルジオリピン(CL)抗体/ループスアンチコアグラント(LA)/リン脂質抗体 [/S] Anticentromere Antibody|抗セントロメア抗体 [/S] Antinuclear Antibodies|抗核抗体 [/S] C-terminal Propeptide of Type I Procollagen|Ⅰ型プロコラーゲンC末端プロペプチド [/S] Cytokeratin 19 Fragment|サイトケラチン19フラグメント/シフラ/シフラ21-1/CYFRA [/S] Elastase Antineutrophil Cytoplasmic Autoantibodies [/S] Endothelin-1|エンドセリン [/P] Gelatinase|ゼラチナーセ/IV型コラゲナーゼ [/S] Hepatocyte Growth Factor|肝細胞増殖因子 [/S] Hyaluronic Acid|ヒアルロン酸 [/S] IgG Anti-Calpastatin Antibodies [/S] IgG Antiendothelial Antibodies [/S] IgM Anti-Calpastatin Antibodies [/S] Intercellular Adhesion Molecule-1|CD54 [/S, /S] Interleukin-10|インターロイキン-10 [/S] Interleukin-13|インターロイキン-13 [/S] Interleukin-1β|インターロイキン-1β [/S] Interleukin-2|インターロイキン-2 [/S] Interleukin-4|インターロイキン-4 [/S] Interleukin-6|インターロイキン-6 [/S] Interleukin-8|インターロイキン-8 [/S] Neopterin|ネオプテリン [/S] Nucleotide Pyrophosphohydrolase, Soluble [/S] Occult Blood|潜血反応(便)/グアヤック法/o-トリジン法/ラテックス凝集法 [/F] Oncoatatin M [/S] p-Antineutrophil Cytoplasmic Autoantibodies|抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体/核周囲型抗好中球細胞質抗体/MPO-ANCA/P-ANCA [/S] P-Selectin|P-セレクチン [/S] Phospholipase A2 [/S] Procollagen Type I Peptide [/S] Procollagen Type III Peptide|プロコラーゲンIIIペプチド [/S] Soluble E-Selectin|可溶性E-セレクチン/可溶性CD62E/可溶性ELAM-1 [/S, /S] Soluble Intercellular Adhesion Molecule-1|可溶性ICAM-1/可溶性CD54/細胞接着分子-1 [/S] Soluble Interleukin-2 Receptor|可溶性 IL-2レセプター/IL-2レセプター/可溶性 IL-2受容体 [/S] Soluble Interleukin-6 Receptor [/S] Soluble Vascular Cell Adhesion Molecule-1|可溶性VCAM-1/可溶性CD106/可溶性血管細胞接着分子-1 [/S, /S] Stromelysin [/P] Thrombomodulin|トロンボモジュリン [/P] Tumor Necrosis Factor-α|腫瘍壊死因子-α [/S] Vascular Endothelial Growth Factor|血管内皮増殖因子 [/S] von Willebrand Factor|フォンウィルブランド因子活性/リストセチン・コファクター活性 [/P] α1-Acid Glycoprotein|α1-酸性糖蛋白/オロソムコイド/α1アシドグリコプロテイン [/S] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 軽度の低色素性小球性貧血を認めることがある。また、小腸のアトニーによる細菌増殖異常でビタミンB12欠乏貧血や葉酸欠乏貧血も起こる。末梢血と待つ標本では微小血管性溶血性貧血と一致した所見を示すことがある。 【LE細胞】 ともに陽性のことがある。 【抗RNAポリメラーゼ抗体】 陽性で50以上を示す。強皮症の診断には従来、抗Scl-70抗体と抗セントロメア抗体が用いられているが、これ等の自己抗体のいずれかが陽性となる強皮症患者は60%程度である。抗RNAポリメラーゼ抗体は、Diffuse型の強皮症に診断特異性が高く、陽性例では高率に強皮症腎症を合併する。また、抗Scl-70抗体や抗セントロメア抗体との併存はきわめて稀で、3者を同時に測定すると特異性を低下させることなく、感度が70%に上がることが実証された。臨床的には強皮症の早期診断に用いる。 【抗Scl-70抗体】 び慢性の皮膚病変を呈する患者の30~70%で陽性である。高力価は予後不良を示す。抗Scl-70抗体は強皮症の標識抗体で、強皮症の約15~30%、強皮症重複症候群の約20%に認められるが、他の疾患では検出されない。陽性者は強皮症の中でも線維化病変が強いことが知られており、病型により反応が異なることが示唆される。強皮症を疑いこの抗体が検出されない症例は、抗セントロメア抗体、抗U1-RNP抗体、抗U3-RNP抗体、抗Th/To抗体などの検査を行う。 【抗核抗体】 95%以上の患者で陽性になり高力価のことが多い。抗RNAポリメラーゼIII抗体のみが高力価の場合は進行性と考える。核小体型のパターンを示せば最も強皮症に特異的な所見である。 【抗セントロメア抗体】 CREST症候群に対して感度と特異度が高い。レイノー現象しかみられない初期でも陽性のことがある。70%の患者で陽性となる。ACAは染色体に存在するセントロメア部分に特異的に反応する強皮症の一病型であるCREST症候群に特異的な抗体で、陽性率はCREST症候群70~80%、強皮症10~30%、Raynaud病25%とされている。臨床的にはRaynaud現象、手指硬化症、毛細血管拡張、皮下の石灰沈着、食道蠕動運動低下などが認められる場合に測定する。 【抗トポイソメラーゼ抗体】 広範性の皮膚強皮症の40%で陽性となる。全身性強皮症の患者はCREST症候群の患者よりも本抗体の陽性率が高い。 【抗Th RNP抗体】 限局性皮膚強皮症の14%が陽性となる。 【抗U1-RNA抗体】 限局性皮膚強皮症の4~10%で陽性となる。抗U1 RNP抗体は混合性結合組織病の標識抗体で、RNase感受性抗ENA抗体と同一とされ、抗体陽性なら混合性結合組織病と診断できる。臨床的には混合性結合組織病では全例陽性となり、重複症候群では60~80%の高い陽性率を示す。膠原病の重複症状がみられ、本抗体が陰性の場合は抗Ku抗体、抗PM-1抗体、抗Jo-1抗体、抗Ki抗体などの自己抗体検査を行う。 【生物学的偽陽性反応】 患者の5%に認められる。 【ESR】 1/3の患者で著しく亢進、1/3で軽度亢進、残り1/3は基準範囲内である。 【免疫グロブリン】 高値である。経過観察のため急性期では2~4週ごと、慢性期には1~3ヶ月ごとに測定する。IgGの増加が殆どである。 【リウマチ因子】 患者の30%で陽性である。 【ループスアンチコアグラント】 陽性のことがある。 【尿検査】 蛋白尿と円柱尿が見られる。 【合併する疾患】 臓器侵襲を反映した検査データが認められる。小腸:吸収不良症候群、腎:腎機能異常、心筋炎・心膜炎:二次性細菌性心内膜炎、肺線維症:二次性肺炎。 |
検体検査以外の検査計画 | 骨関節X線検査、食道X線検査、肺機能検査、胸部CT検査、心エコー検査、胸部高解像度CT検査、呼吸機能検査 |