疾患解説
フリガナ | ショック |
別名 | |
臓器区分 | 救急疾患 |
英疾患名 | Shock |
ICD10 | R57.9 |
疾患の概念 | 急性に発症した全身性の末梢循環不全により細胞が低酸素の状態になる病態で、組織・臓器の酸素代謝障害による細胞機能障害と細胞死が主たる病態である。発症の機序は循環血液量の減少、心拍出量の減少と血管拡張で、放置すれば細胞機能不全、臓器機能不全から死に至る。臨床所見は心拍数>100回/分、呼吸数>20回/分、収縮期血圧<90mmHg又は通常の血圧から30mmHg低下、尿量-0.5mL/kg/時である。ショックによる障害は、組織への灌流減少で、灌流減少により好気性代謝に必要なO2が、細胞に十分運搬されなくなり、これにより、細胞代謝が嫌気性代謝に切り替わり、CO2産生が増加し乳酸が蓄積され細胞機能が低下する。ショックが持続すれば、不可逆的な細胞障害および細胞死を招く。ショックの原因は、循環血液量の減少(循環血液量減少性ショック)、血管拡張(血液分布異常性ショック)、一次性の心拍出量の減少(心原性および閉塞性ショックの両方)またはこれらの組み合わせである。循環血液量減少性ショックは、血管内容量の減少により生じ、静脈還流が減少すると、心室が充満しないため一回拍出量が減少する。原因は出血で、外傷、外科手術、消化性潰瘍、食道静脈瘤破裂または大動脈瘤破裂による。血液分布異常性ショックは、動脈や静脈の拡張により相対的に血管内容量が不十分になることに起因するが、循環血液量は正常である。血液分布異常性ショックの原因は、アナフィラキシー、エンドトキシン放出を伴う細菌感染症、脊髄損傷、T4より高位の神経原性シショックであるが、硝酸薬、オピオイドおよびアドレナリン遮断薬などの薬物または毒物の摂取などもありうる。心原性ショックは、一次性心疾患に起因する心拍出量の相対的または絶対的な減少であり、閉塞性ショックは、心臓または大血管の充満または駆出を阻害する物理的因子によって引き起こされる。ショックによる直接的な障害および再灌流障害は、多臓器不全症候群(MODS)を引き起こすことがある。MODSはあらゆる型のショックに続発しうるが、感染症によるショックが関与することが非常に多い。MODSは重症外傷患者の 10%以上に起こり、24時間を超えて生存している重症外傷患者の死因の第1位である。 |
診断の手掛 | 診断は主として臨床所見によるが鈍麻、乏尿、チアノーゼ、頻脈、頻呼吸、発汗などの徴候を見逃さない。組織還流が不十分なことによる症状(鈍麻、乏尿、末梢性チアノーゼ)と代償作用の徴候(頻脈、頻呼吸、発汗)を慎重に観察する。手足は蒼白で冷たく湿り、しばしばチアノーゼがみられ、耳介、鼻および爪床にもチアノーゼを認める。毛細血管再充満時間は延長し、血液分布異常性ショックを除いては、皮膚は灰色または黒みがかって湿潤する。著明な発汗を生じることがあり、脈拍は弱く速くなる。呼吸は頻呼吸および過換気がみられることがある。血圧は収縮期圧が90mmHg未満に低下するか測定不能となる。次の5P:1.pallor:蒼白 2.prostration:虚脱 3.pulselessness:脈拍を触れない 4.perspiration:冷や汗 5.pulmonary deficiency:呼吸障害がそろえばショックとする。 |
主訴 |
意識障害|Memory impaiment 虚脱|Collapse 傾眠|Drowsiness/Somonolency 呼吸困難|Dyspnea 錯乱|Confusion チアノーゼ|Cyanosis/Cyanopathy 低血圧|Hypotension/Hypotonia 発汗異常|Dyshidrosis/Paridrosis 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever 皮膚蒼白|Paling of skin 頻呼吸|Tachypnea 頻脈|Tachycardia 乏尿|Oliguria 脈拍触知不能|Acrotism 無尿|Anuria 冷汗|Cold sweat |
鑑別疾患 |
アナフィラキシー|Anaphylaxis 外傷 冠動脈疾患|Coronary Artery Disease(CAD) 急性失血 急性心筋梗塞|Acute Myocardial Infarction(AMI) 急性膵炎|Acute Pancreatitis 急性中毒 菌血症 緊張性気胸 高K血症|Hyperkalemia 心筋炎|Myocarditis 心タンポナーデ 低K血症|Hypokalemia 低酸素血症|Hypoxia 毒素性ショック症候群|Toxic Shock Syndrome(TSS) 熱傷 敗血症|Sepsis 肺高血圧症 肺塞栓症|Pulmonary Embolism(PE) 子宮外妊娠|Ectopic Pregnancy 大動脈瘤破裂 脱水症|Dehydration 熱中症|Heatstroke |
スクリーニング検査 |
Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/S] Amylase|アミラーゼ [/S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Creatinine|クレアチニン [/S] Erythrocytes|赤血球数 [/B, /B] Fibrinogen|フィブリノゲン/凝固第I因子 [/P] GFR|糸球体濾過量 [/U] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] Leukocytes|白血球数 [/B, /B] Phosphate|無機リン [/S] Platelets|血小板 [/B] Urea Nitrogen|尿素窒素 [/S] |
異常値を示す検査 |
2,3-Diphosphoglycerate|2,3-ジホスホグリセレート/2,3-ジホスホグリセリン/2,3-ビスホスホグリセリン酸 [/RBC] Adrenomedullin|アドレノメデュリン [/P] Amino Acids|アミノ酸分析/アミノ酸41分画 [/P] Bicarbonate|血漿HCO3-濃度/重炭酸イオン [/S] Carbon Dioxide Partial Pressure|動脈血CO2分圧/炭酸ガス分圧/CO2分圧/PCO2/PaCO2 [/B] Creatine Kinase BB-Isoenzyme|CK-BB [/S] Epinephrine|カテコールアミン総 [/P] Euglobulin Lysis Time|ユーグロブリン溶解時間 [/B] Fibrin and Fibrinogen Degradation Products|フィブリン・フィブリノゲン分解産物/線維素分解産物 [/P] Fibronectin|フィブロネクチン [/P] Interleukin-1 Receptor Antagonist [/CSF, /S] Interleukin-1 Receptor Antagonist Type II [/CSF, /S] Interleukin-1β|インターロイキン-1β [/CSF, /S] Interleukin-6|インターロイキン-6 [/S] Interleukin-8|インターロイキン-8 [/S] Lactate|乳酸/ラクテート [/B, /P] Norepinephrine|カテコールアミン総 [/P] Oxygen Saturation|酸素飽和度/O2飽和度 [/B] pH|尿pH [/B] Tumor Necrosis Factor-α|腫瘍壊死因子-α [/S] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 白血球は出血性ショックで増加、重症なショックやグラム陰性桿菌による敗血症性ショックでは低下する。 【サイクリックGMP】 cGMPは細胞内情報伝達、細胞の増殖・分化の抑制因子などの生理作用を持つ。臨床的意義は確立されていないが、肝疾患、急性心筋梗塞、気管支喘息、腎不全、悪性腫瘍などで高値になる。敗血症性ショックでは大量のNOやC型Na利尿ペプチドの産生が促される場合に認められる。 【UN】【クレアチニン】【クレアチニンクリアランス】 UNとクレアチニンは増加し、Ccrは低値になる。 【乳酸】 乳酸の増加、Naとアルカリ予備量の低下でアシドーシスが出現する。 【腫瘍壊死因子-α】 敗血症性ショックで高値を示す。 【動脈血ガス分析】 PaCO2が基準範囲内か以下である。 【動脈血ケトン体比】 アセト酢酸:β-ヒドロキシ酪酸比は0.7以下に著しく低下する。 【尿一般検査】 比重が1.020以上であれば体液量の低下を疑う。尿量が20~30mL/時以下で比重が1.010以下の場合は腎不全が考えられる。 【尿沈渣】 尿細管上皮細胞を認める。 【浸透圧】 尿浸透圧が高値の場合は循環血漿量の低下、低値の場合と尿量減少があれば腎不全を疑う。 【尿浸透圧:血清浸透圧比】 2以上は循環血漿量の低下を、1:1以下なら腎不全を疑う。 【診断を裏付ける検査所見】 乳酸3mmol/L以5mEq/L未満、塩基欠乏5mEq/L未満、及びPaco2が32mmHg未満などである。 |
検体検査以外の検査計画 | 心電図検査、胸部X線検査、CT検査、冠動脈造影検査、心臓カテーテル検査、肺スキャンニング、ヘリカルCT検査、心超音波検査、血圧測定、深部体温測定 |