疾患解説
フリガナ | ハイソクセンショウ |
別名 | 肺血栓塞栓症 |
臓器区分 | 呼吸器疾患 |
英疾患名 | Pulmonary Embolism(PE) |
ICD10 | I26.9 |
疾患の概念 | 下肢や骨盤の大静脈など、他の場所で発生した血栓、脂肪、空気、異物などが、大静脈右心系から肺循環に流れ込み、肺動脈を閉塞することで発症する。ほぼ全ての肺塞栓症が、下肢または骨盤の静脈の深部静脈血栓症から生じる。血栓が腓腹部の静脈に近い場合、塞栓のリスクがより高くなる。肺塞栓症の危険因子は、安静や歩行がなく動きが制限され、静脈還流が妨げられる状態、血管内皮の障害や機能不全を引き起こす状態、凝固亢進を引き起こす基礎疾患がある状態である。肺塞栓症は、深部静脈血栓が遊離して静脈系および右心内を通過し、肺動脈に詰まることにより、血管が部分的または完全に閉塞する病態である。大きな塞栓が、主要肺動脈を閉塞したり、多数の小さな塞栓が、血管の 50%以上を閉塞すると右室圧が上昇し、結果として急性右室不全、ショックまたは突然死に至ることがある。 |
診断の手掛 | 症状や徴候が非特異的であるため、診断は困難なことが多い。急性の呼吸困難及び胸膜性の胸痛、咳、痰、喀血、失神などのうち1つ以上を訴える患者は本症の可能性を考える。頻脈と頻呼吸を訴えたら広範囲肺塞栓症を考える。また、広範囲肺塞栓症では低血圧、頻脈、ふらつき、失神前状態、失神もよく見られる症状であり、心停止が生じる可能性があるので診断を急ぐ。 |
主訴 |
下肢腫脹|Lower extremity swelling 下肢痛|Calf pain 喀血|Hemoptysis 胸痛|Chest pain 血圧低下|Blood pressure decreased 呼吸困難|Dyspnea 失神|Syncope ショック|Shock 咳|Cough 痰|Sputum 排尿時失神|Micturition syncope 排便時失神|Defecation syncope 頻呼吸|Tachypnea 頻脈|Tachycardia |
鑑別疾患 |
肺癌|Lung Cancer 肝細胞癌|Hepatocellular Carcinoma/Hepatoma 腎細胞癌|Renal Cell Carcinoma(RCC) 外傷 解離性大動脈瘤 気管支喘息 急性心筋梗塞|Acute Myocardial Infarction(AMI) 胸膜炎 呼吸性アルカローシス|Respiratory Alkalosis 左室不全 ショック|Shock 深部静脈血栓症|Deep Venous Thrombosis(DVT) 脳卒中|Apoplexy/Stroke 肺炎|Pneumonia 慢性閉塞性肺疾患|Chronic Obstructive Pulmonary Disease(COPD) 気胸 敗血症|Sepsis |
スクリーニング検査 |
Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S] Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/S] Amylase|アミラーゼ [/PlF] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Bilirubin-Indirect|間接ビリルビン/非抱合型ビリルビン [/S] Creatine Kinase|クレアチンキナーゼ/クレアチンホスホキナーゼ [/S] Erythrocytes|赤血球数 [/PlF, /Sputum] Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B] Fibrinogen|フィブリノゲン/凝固第I因子 [/P] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/PlF, /S] Leukocytes|白血球数 [/B] Neutrophils|好中球 [/B, /PlF] Platelets|血小板 [/B] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/PlF] |
異常値を示す検査 |
Aldolase|アルドラーゼ/アルドラーゼアイソザイム [/S] Anticardiolipin Antibodies|抗リン脂質抗体/抗PL抗体/抗カルジオリピン(CL)抗体/ループスアンチコアグラント(LA)/リン脂質抗体 [/S] Antithrombin Titer [/P] Carbon Dioxide Partial Pressure|動脈血CO2分圧/炭酸ガス分圧/CO2分圧/PCO2/PaCO2 [/B] Cold Agglutinins|寒冷凝集反応/寒冷血球凝集反応 [/S] Cryofibrinogen|クリオフィブリノゲン [/P] Cryoglobulins|クリオグロブリン [/S] Cryomacroglobulins [/S] D-Dimer|Dダイマー/フィブリン分解産物Dダイマー [/P] Factor IV|第IV因子活性/フリーCaイオン [/P] Fibrin and Fibrinogen Degradation Products|フィブリン・フィブリノゲン分解産物/線維素分解産物 [/P] Fibrinopeptide A|フィブリノペプタイドA [/U] Lactate Dehydrogenase Isoenzyme-5|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzymes|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Lipoprotein Lp (a)|リポ蛋白(a)/リポプロテイン(a) [/S] Oxygen Partial Pressure|動脈血O2分圧/酸素分圧/O2分圧/PO2 [/B] Oxygen Saturation|酸素飽和度/O2飽和度 [/B] pH|尿pH [/PlF, /B] Specific Gravity|比重(尿)/尿比重 [/PlF] Troponin T|心筋トロポニンT/トロポニンT [/S] Urobilinogen|ウロビリノゲン定性(尿) [/U] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 白血球は半数の症例で増加するが、15,000/μLを超えることはない。 【D-Dimer】 増加していれば、最近の血栓の存在を示唆する。患者の90%以上で高値を示す。。低値の場合は陰性的中率が90%以上あるので本症を否定できる。500ng/mL以下であれば肺血管造影の必要はない。 【FDP】 高値を示せば血栓による塞栓を考える。 【ALP】【γ-GT】 治癒期になると血管内皮由来の耐熱性ALPが増加する。同時にγ-GTの増加も認める。 【AST】【LD】【ビリルビン】 ASTは基準範囲内で、LDとビリルビン増加の3徴候を全て認める症例は、全体の15%。80%の患者でLD(LD2またはLD3)が初日から増加し、2日目にピークに達し10日目までには正常化する。ビリルビンは4日目あたりに5mg/dLまで増加する。 【胸水一般検査】 胸水が半数の患者に認められ1/3~2/3は血性である。 【パルスオキシメトリー】 低酸素血症がPEの1つの重要な徴候なので、パルスオキシメトリーにより酸素飽和度を迅速に評価する。 【動脈血ガス分析】 最も感度と特異性の高い検査である。多くの症例でPO2は80torr未満であるが、基準範囲内でも肺塞栓症を否定できない。低炭酸ガス血症とpHの上昇を認める。PO2は動脈血中に溶解しているO2の分圧で、その値は血液中のO2の利用度を反映している。血中O2濃度低下やCO2濃度上昇があれば、肺のガス交換機能や換気運動の障害を考える。体内の酸素予備能は1リットル程度で極めて少なく、数分の供給停止は死にいたる。臨床的にはpH、PCO2、So2、HCO3-などと同時に測定し、肺のガス交換能を評価する。 |
検体検査以外の検査計画 | 胸部X線検査、パルスオキシメトリー、心電図検査、造影CT検査、肺シンチグラフィー、肺血管造影検査、ヘリカルCT検査、心超音波検査、呼吸機能検査 |