疾患解説
フリガナ | キュウセイスイエン |
別名 | |
臓器区分 | 消化器疾患 |
英疾患名 | Acute Pancreatitis |
ICD10 | K85 |
疾患の概念 | 活性化された膵酵素によって、膵が自己消化する急性の炎症性疾患で、原因はトリプシンで活性化されたキニン、ホスホリパーゼA2やエラスターゼなどの他、膵管閉塞、胆汁や十二指腸液の膵管への逆流が考えられている。誘因としては胆道疾患と多量のアルコール摂取が知られている。 |
診断の手掛 |
突然発症する持続性の上腹部穿刺痛で、50%は背部に放散する。発汗、頻脈(100~140拍/分)、一過性の血圧変動、発熱などを訴える患者を診たら本症を疑う。特に、アルコール過飲者や胆石患者が激しい腹痛を訴えたら常に膵炎を考える。疼痛は通常大量のオピオイドなどの投与が必要なほど重度である。低血圧が一般的に見られ、ショックもしばしば起こる。原因は1.後腹膜腔への血液および血漿蛋白の滲出 2.キニンペプチドによる血管拡張や血管透過性亢進 3.放出された蛋白分解酵素と脂肪分解酵素の作用である。 【診断基準:2008年厚生省】 1.上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある。 2.血中又は尿中に膵酵素の上昇がある。 3.超音波、CTまたはMRIで膵に急性膵炎に伴う異常所見がある。 上記3項目中2項目以上を満たし、他の膵疾患及び急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断する。但し、慢性膵炎の急性増悪は急性膵炎に含める。 *膵酵素は膵特異性の高いもの(膵アミラーゼ、リパーゼなど)を測定することが望ましい。 |
主訴 |
黄疸|Jaundice 嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea カレン徴候|Cullen sign 胸水|Pleural effusion グレイ・ターナー徴候|Grey Turner sign 血圧低下|Blood pressure decreased 下血|Melena 高熱|High fever/Hyperthermia 呼吸困難|Dyspnea 紫斑|Purpura 出血傾向|Bleeding tendency/Hemorrhagic diathesis 消化管出血|Gastrointestinal bleeding ショック|Shock 心窩部痛|Epigastralgia/Epigastric pain/Upper abdominal pein 上腹部圧痛|Upper abdominal tenderness 上腹部激痛|Upper abdominal terebration 上腹部痛|Upper abdominal pain 腸雑音消失|Disappearance of intestinal murmur 背部痛|Backache 背部放散痛|Radiating pain of back 発汗異常|Dyshidrosis/Paridrosis 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever 頻呼吸|Tachypnea 頻脈|Tachycardia 腹痛|Abdominal pain 腹部膨満感|Sense of Abdominal fullness 乏尿|Oliguria 無尿|Anuria |
鑑別疾患 |
膵癌 アルコール依存症|Alcoholism 消化管穿孔 解離性大動脈瘤 下壁心筋梗塞 急性胆管炎|Acute Cholangitis 急性胆嚢炎|Acute Cholecystitis 起立性低血圧症 憩室炎|Diverticulitis 血管炎症候群|Vasculitic Syndrome 低Ca血症|Hypocalcemia 高脂血症 高尿酸血症 絞扼性イレウス 十二指腸潰瘍 胆石症|Cholecystolithiasis 急性虫垂炎|Acute Appendicitis 腸間膜アンギナ 腸間膜動脈塞栓症 低アルブミン血症 脾血腫 腹筋血腫 腹部外傷 無気肺 |
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/S, /AsF] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/AsF, /S] Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/S] Amylase|アミラーゼ [/S, /AsF, /PlF, /S, /Saliva, /U] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Bilirubin-Direct|直接ビリルビン/抱合型ビリルビン [/S] Bilirubin-Indirect|間接ビリルビン/非抱合型ビリルビン [/S] Bilirubin-Total|総ビリルビン/ビリルビン [/S, /U] C-Peptide|C-ペプチド [/P] Calcium|カルシウム [/S, /S] CEA|癌胎児性抗原 [/PlF, /S] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S, /S] Creatine Kinase|クレアチンキナーゼ/クレアチンホスホキナーゼ [/S] Creatinine|クレアチニン [/S] C-reactive Protein|C反応性蛋白 [/S] Eosinophils|好酸球 [/PlF] Erythrocytes|赤血球数 [/AsF, /PlF] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S, /U] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B, /B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Leucine Aminopeptidase|ロイシンアミノペプチダーゼ [/S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] Leukocytes|白血球数 [/B, /PlF] Magnesium|マグネシウム [/RBC, /S] MCV|平均赤血球容積 [/B] Neutrophils|好中球 [/B, /PlF] Phosphate|無機リン [/S] Potassium|カリウム [/S] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/AsF, /PeF, /PlF] Triglycerides|トリグリセリド/中性脂肪/トリグリセライド/トリアシルグリセロール [/S] Urea Nitrogen|尿素窒素 [/S] γ-Glutamyltranspeptidase|γ-グルタミルトランスペプチダーゼ/γ-グルタミルトランスフェラーゼ [/S, /Saliva] |
異常値を示す検査 |
17-Hydroxycorticosteroids|17-ヒドロキシコルチコステロイド [/U] 17-Ketogenic Steroids|17-ケトジェニックステロイド [/U] 5'-Nucleotidase|5'-ヌクレオチダーゼ [/S] Adrenomedullin|アドレノメデュリン [/P] Aldolase|アルドラーゼ/アルドラーゼアイソザイム [/S] Amino Acids|アミノ酸分析/アミノ酸41分画 [/P, /U] Antithrombin III|アンチトロンビンIII/アンチトロンビン [/P] Arylsulfatase [/AsF] C-Peptide|C-ペプチド [/P] CA 125|CA125 [/S] CA 19-9|CA19-9 [/S] CA 195 [/S] CA 50|CA50 [/S] CA 72-4|CA72-4 [/S] Catecholamines|カテコールアミン総 [/U] Cationic Trypsinogen [/S] Chylomicrons [/S] Elastase|エラスターゼ [/Neutrophils] Epinephrine|カテコールアミン総 [/P] Fibronectin|フィブロネクチン [/P] Fibronectin Fragment [/U] Glucagon|グルカゴン/膵グルカゴン [/P] Hyaluronic Acid|ヒアルロン酸 [/S] Hydroxyproline|総ヒドロキシプロリン/ヒドロキシプロリン [/U] Insulin|インスリン [/P] Interleukin-1 Receptor Antagonist [/S] Interleukin-10|インターロイキン-10 [/S] Interleukin-6|インターロイキン-6 [/S] Interleukin-8|インターロイキン-8 [/S] Ionized Calcium|イオン化カルシウム/Caイオン [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzyme-5|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzymes|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Lactate Dehydrogenase:Aspartate Aminotransferase Ratio [/S, /S] Laminin|ラミニン [/S] Lipase|リパーゼ/膵リパーゼ [/AsF, /PlF, /S] Lipase:Amylase Ratio [/S] Lipids|総脂質 [/S] Lipoproteins|リポ蛋白脂質分画 [/S] Malate Dehydrogenase|リンゴ酸脱水素酵素 [/S] Methemalbumin|メトヘムアルブミン [/AsF, /S] Neutrophil Elastase|顆粒球エラスターゼ/好中球エラスターゼ [/P, /S] Occult Blood|潜血反応(便)/グアヤック法/o-トリジン法/ラテックス凝集法 [/F] Oxygen Partial Pressure|動脈血O2分圧/酸素分圧/O2分圧/PO2 [/B] Oxygen Saturation|酸素飽和度/O2飽和度 [/B] Pancreatic Secretory Trypsin Inhibitor|膵分泌性トリプシンインヒビター [/S] Parathyroid Hormone|副甲状腺ホルモン [/P] pH|尿pH [/PlF] Phospholipase A|ホスホリパーゼA [/S] Phospholipase A2 [/S] Phospholipase A2 Type I [/S] Procollagen Type III Peptide|プロコラーゲンIIIペプチド [/S] Proinsulin|プロインスリン [/P] Soluble CD4+ [/S] Soluble CD8+ [/S] Soluble Interleukin-2 Receptor|可溶性 IL-2レセプター/IL-2レセプター/可溶性 IL-2受容体 [/S] Specific Gravity|比重(尿)/尿比重 [/PlF] Trypsin|トリプシン [/S] Trypsin-2-α1-Antitrypsin [/S] Trypsinogen-2|トリプシノゲン2 [/S, /U] Tumor Necrosis Factor-α|腫瘍壊死因子-α [/S] Urea|尿素 [/S] Vitamin C|ビタミンC/アスコルビン酸 [/S] α-Glucosidase|α-グルコシダーゼ [/S] α1-Antitrypsin|α1-アンチトリプシン [/AsF, /S] α2-Macroglobulin|α2-マクログロブリン [/S, /AsF, /S] β-Glucuronidase|β-グルクロニダーゼ [/AsF] β2-Microglobulin|β2-ミクログロブリン/β2-マイクログロブリン [/S] |
関連する検査の読み方 |
【Ca】 約25%の患者に低Ca血症が見られ、発病後1~9日で低下すれば重症である。 【LD】 500U/dL以上の上昇は予後不良である。 【アルブミン】 約10%の患者で3.0g/dL以下に減少し、重症度と高死亡率に関連している。 【ビリルビン】 膵浮腫により総胆管が圧迫され、15~25%の患者で上昇する。 【トリグリセリド】 高トリグリセリド血症が原因の一つであるので、チェックする。 【アミラーゼ】 発病後3~6時間以内に増加し、20~30時間後にピーク、48~72時間持続する。基準範囲上限の40倍まで増加することがあり、アイソザイムは膵型が高値を示す。尿アミラーゼは6~10時間のタイムラグで血清の値を反映する。 【アミラーゼ分画】 p型とs型を分画することで、判断の精度が上昇する。 【リパーゼ】 発病後3~4時間以内に増加し、24時間でピークに達し1~2週後に基準範囲内に戻る。基準値上限の5倍以上の時は膵炎を疑う、診断価値はアミラーゼより高い。リパーゼの大部分は膵リパーゼで膵腺房細胞で産生され、十二指腸に排出されトリグリセリドをグリセロールと脂肪酸に加水分解する酵素である。臨床的には上腹部痛、背部痛、体重減少、下痢などの症状を訴える膵炎や膵癌を疑う患者にスクリーニング検査として行う。リパーゼはアミラーゼよりも膵特異性が高く、異常値の持続期間も長いので急性膵炎の診断有用性が高い。 【アミラーゼ:クレアチニンクリアランス比】 感度、特異度が低いので有用性がない。膵炎が存在しない場合にマクロアミラーゼ血症の診断に使われる。急性膵炎ではACCRの上昇がみられるがACCRは腎機能に左右され時間別の採尿が必要である。このため、クレアチニンクリアランスとの比をとることで腎機能の影響を除外し、尿量に関係なく血中・尿中のアミラーゼとクレアチニンの測定のみで簡単にACCRが算定出来る計算式が用いられている。ACCR(%)=(尿中アミラーゼ×血中クレアチニン)/(血中アミラーゼ×尿中クレアチニン)×100 【膵炎関連蛋白】 膵に対する侵襲に応答して産生されるストレス蛋白で重症化の予知、予後推定、治療効果判定に有用である。PAPは正常の膵ではランゲルハンス島のα細胞で発現しているが、外分泌細胞では急性膵炎で膵腺房細胞が障害を受けた場合のみ発現するストレス蛋白である。膵炎発症直後に上昇する膵酵素や炎症マーカーは炎症の消退と共に急速に低下するが、PAPは発症3~7日目にピークとなり、ゆっくりと低下する。 【膵分泌性トリプシンインヒビター】 重症例で高値を示す。PSTIは膵腺房細胞で産生され、活性化トリプシンと結合して活性を阻害する働きを持ち、急性膵炎の際に膵の自己溶解を阻止する働きがある。血中濃度の上昇は膵へ何らかの侵襲が加わったことを示唆し、侵襲・炎症マーカーとして有用性がある。 【トリプシン】 高値になる。基準範囲内なら急性膵炎除外の指標、ただし特異度は低い。 【CBC】 しばしば白血球が15,000~20,000/μL以上に増加する。血液濃縮によりヘマトクリットが50~55%に上昇する事があるが、これは重度の炎症を示唆する。 【尿エステラーゼ反応】 陽性である。 【キモトリプシン】 糞便中の値は13.2IU/g/37℃以下である。 【PFDテスト】 70%以下である。 【ランソン基準】 1.下記のうち3項目以上が該当すれば、膵壊死を合併する重症の経過となることが60~80%の感度で予測される。①年齢:55歳以上 ②白血球数:16,000/μL以上 ③血糖値:200mg/dL以上 ④LD値:350U/L以上 ⑤AST:250U/L以上 2.最初の48時間における下記の変化は予後不良を示す。①ヘマトクリット値:10%以上低下 ②UN:5mg/dL以上上昇 ③Ca:8mg/dL未満 ④塩基欠乏:4meq/L以上 ⑤予測体液喪失:6L以上 |
検体検査以外の検査計画 | 胸部・腹部X線検査、超音波検査、二相性(膵描出設定)CT検査、MRI膵管胆管造影検査、ガドリニウムMRI検査、心電図検査 |