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疾患解説

フリガナ アクセイヒンケツ
別名
臓器区分 血液・造血器疾患
英疾患名 Pernicious Anemia
ICD10 D51.0
疾患の概念 自己免疫機序で、内因子の分泌障害が起り、結果としてビタミンB12(コバラミン)が欠乏し、骨髄の赤血球系細胞のDNA合成障害が起こり、巨赤芽球性の無効造血を呈する貧血で、抗壁細胞抗体や抗内因子抗体が検出される。大球性(MCVが95fL以上)貧血の殆どは本症である。発症年齢の平均は60歳位で、30歳以下は稀であるが、10歳以下の小児に見られることもある。巨赤芽球の出現は、DNA合成障害により、核が大きな大型の細胞が産生されることが原因である。また、DNA合成障害は、全ての血球系で細胞質の成熟が核の成熟を上回る成熟障害を起こす。成熟障害は、骨髄内で細胞死を起こし、それによる無効造血は、高間接ビリルビン血症、高LD血症を引き起こす。また、成熟障害は全ての血球系で起こるため、最初に網状赤血球が減少し、その後、白血球減少および血小板減少が見られる。末梢血には、卵円形の大きな赤血球と過分葉化した好中球が出現する。
診断の手掛 貧血は潜在性に進行するため、重度になるまで症状が出現しないことが多い。貧血と原因不明の末梢神経障害を訴える患者を診たら本症を疑う。患者によっては、イライラ感と軽度のうつ症状が見られることもある。悪性貧血の発症率はGraves病、粘液水腫、甲状腺炎、特発性副腎皮質機能低下症、白斑、副甲状腺機能低下症などの免疫原性と考えられる疾患を持つ患者では、高率になるので注意する。また、胃ポリープや胃癌の発症率が高いので、経過観察は欠かせない。血清ビタミンB12値は100pg/mL以下になり、欠乏は、末梢神経障害、認知症、亜急性連合変性症などの神経症状を引き起こすことがある。診断はCBC、赤血球指数、網状赤血球数および末梢血塗抹標本と骨髄検査で可能である。塗抹標本では、大楕円赤血球、赤血球大小不同および変形赤血球が見られ、赤血球分布幅(RDW)は大きくなる。また、ハウエル-ジョリー小体がみられ、好中球の過分葉化も早期に出現する。重症例では血小板減少と血小板の大きさおよび形態異常が見られる。
主訴 息切れ|Shortness of breath/Breathlessness
易疲労感|Fatigue
いらいら|Irritability
運動失調|Ataxia
嘔吐|Vomiting
悪心|Nausea
肝腫大|Hepatomegaly
下痢|Diarrhea
四肢のしびれ|Sensory disturbance of Extremities
しびれ|Numbness
食欲不振|Anorexia
精神障害|Mental disorder
舌発赤|Flare of tongue
全身倦怠感|General malaise/Fatigue
知覚障害|Esthesia disorder/Sensitivity disorder
動悸|Palpitations
白髪|Canities/Poliosis
脾腫|Splenomegaly
貧血症状|Anemic symptom
便秘|Constipation
歩行障害|Gait disturbance
抑うつ状態|Depressive state
鑑別疾患 アルコール依存症|Alcoholism
胃炎|Gastritis
高ビリルビン血症
骨髄異形成症候群|Myelodysplastic Syndrome
ビタミンB12欠乏症|Vitamin B12 Deficiency
溶血性貧血
巨赤芽球性貧血|Megaloblastic Anemia
認知症|Dementia
末梢神経障害
舌炎
亜急性脊髄連合変性症
盲管症候群
吸収不良症候群|Malabsorption
条虫症
慢性膵炎|Chronic Pancreatitis
エイズ/HIV感染症|Acquired Immune Deficiency Syndrome(AIDS)
薬剤(抗腫瘍剤、免疫抑制剤、制酸剤、メトホルミン)
アルツハイマー病|Alzheimer's Disease
せん妄
抑うつ状態
スクリーニング検査 Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S]
Bilirubin-Indirect|間接ビリルビン/非抱合型ビリルビン [/S]
Bilirubin-Total|総ビリルビン/ビリルビン [/S]
Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S]
Eosinophils|好酸球 [/B]
Fibrinogen|フィブリノゲン/凝固第I因子 [/P]
Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B]
Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B]
Iron|鉄/血清鉄 [/Bone Marrow, /S]
Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S]
Leukocytes|白血球数 [/B]
MCH|平均赤血球ヘモグロビン量 [/B]
MCV|平均赤血球容積 [/B]
Phosphate|無機リン [/S]
Platelets|血小板 [/B]
Potassium|カリウム [/S]
TIBC|総鉄結合能 [/S]
Triglycerides|トリグリセリド/中性脂肪/トリグリセライド/トリアシルグリセロール [/S]
Uric Acid|尿酸 [/S, /S]
異常値を示す検査 2,3-Diphosphoglycerate|2,3-ジホスホグリセレート/2,3-ジホスホグリセリン/2,3-ビスホスホグリセリン酸 [/RBC]
Aldolase|アルドラーゼ/アルドラーゼアイソザイム [/S]
Amino Acids|アミノ酸分析/アミノ酸41分画 [/U]
Antibody Titer [/S]
Anti-Intrinsic Factor Antibody|抗内因子抗体/抗胃抗体 [/S]
Anti-Parietal Cell Antibody|抗胃壁細胞抗体/胃壁細胞抗体 [/S]
Antithyroglobulin Antibodies|抗サイログロブリン抗体/サイロイドテスト [/S]
Bleeding Time|出血時間 [/Patient]
Calcitonin|カルシトニン [/P]
Cholesterol, Free|遊離型コレステロール/遊離コレステロール [/S]
Clot Retraction|血餅退縮能 [/B]
Complement C3|補体第3成分/β1C・β1Aグロブリン/C3 [/S]
Erythrocyte Survival|赤血球寿命 [/RBC]
Free Fatty Acids|遊離脂肪酸/非エステル型脂肪酸/FFA [/S]
Folate|葉酸/プテロイルモノグルタミル酸/ビタミンM/乳酸菌発育因子 [/S]
Gastrin|ガストリン [/S]
Glucose-6-Phosphate Dehydrogenase|グルコース-6-リン酸脱水素酵素/ブドウ糖-6-リン酸脱水素酵素 [/RBC]
Haptoglobin|ハプトグロビン [/S]
Hemoglobin F|ヘモグロビンF/胎児性ヘモグロビン/胎性ヘモグロビン [/B]
Hydrochloric Acid [/Gastric Fluid]
Intrinsic Factor Blocking Antibody [/S]
Isocitrate Dehydrogenase|イソクエン酸脱水素酵素/イソクエン酸デヒドロゲナーゼ [/S]
Lactate Dehydrogenase Isoenzyme-5|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S]
Lactate Dehydrogenase Isoenzymes|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S]
Lipids|総脂質 [/RBC, /S]
Malate Dehydrogenase|リンゴ酸脱水素酵素 [/S]
Methylmalonate|メチルマロン酸 [/U]
Monoamine Oxidase|モノアミンオキシダーゼ [/Platelets]
N-Formiminoglutamic Acid [/U]
Parietal Cell Antibodies|抗胃壁細胞抗体/胃壁細胞抗体 [/S]
Pepsinogen I|ペプシノゲンI/血清ペプシノゲンI [/S]
Phospholipids|リン脂質 [/RBC, /S]
Poikilocytes|赤血球大小不同 [/B]
Reticulocytes|網赤血球/レチクロサイト/網状赤血球数 [/B]
Schlling Test|ビタミンB12吸収試験(シリング試験)/シリングテスト [/U]
Taurine|タウリン/アミノエチルスルホン酸 [/U]
Urobilinogen|ウロビリノゲン定性(尿) [/U, /F]
Uropepsinogen [/U]
Vitamin B12|ビタミンB12/コバラミン/シアノコバラミン [/S]
Vitamin B12 Binding Capacity|ビタミンB12結合能 [/S]
Zinc|亜鉛 [/S]
関連する検査の読み方 【CBC】
大球性正色素性貧血があるが、その程度は神経症症状とは相関しない。赤血球は50万/μL程度まで低下する。MCHは中等度貧血で33~38pg程度であるが、高度の貧血では≦56pgになることもある。MCVは軽度~中等度の貧血では95~110fLであるが、高度貧血では110~150fLに達する。MCVが>120fLなら巨赤芽球性貧血の可能性が高い。血小板は約12%の患者で低下し、形態異常が認められる。
【血液像】
好中球に5分葉以上の大型過分葉球が見られる。5分葉以上が、2個見られれば可能性が高く、6分葉が見られれば本症と診断できる。赤血球形態は卵形の大赤血球、分裂赤血球、Howell-Jolly小体、Cabot輪などを認めることがある。変形赤血球の増加、大小不同が見られたら再発を考える。ヘマトクリットが20%以下になると、有核赤血球が出現する。重症例では血小板減少症がみられ、血小板の大きさと形状異常が認められる。
【網状赤血球】
減少する。網状赤血球の増加を伴わない溶血性貧血の所見があれば本症を強く疑う。
【骨髄像】
巨赤芽球性の赤芽球の過形成と骨髄球系や巨核球系細胞に形態異常を認める。染色体が濃縮されていない大型の有核赤血球前駆細胞である巨赤芽球がみられる。この巨赤芽球症は大球性貧血に先行して現れる。
【LD】
著しく増加し単独の高値が本症発見のきっかけになることがある。LD-1とLD-2が増加しLD-1>LD-2になる。
【LD:AST比】
30以上である。
【間接ビリルビン】
4mg/dL程度の増加を認める。
【コレステロール】
中等度に減少する。
【胃液一般検査】
BAO:3mEq/時未満、MSVR:100mL/時未満、MAO:7.7mEq/時未満で低および無酸になる。
【抗胃壁細胞抗体】
陽性である。胃壁細胞はガストリン、ヒスタミン、アセチルコリンの刺激を受け胃酸分泌を行う細胞で、胃主細胞に次いで多い細胞である。この胃壁細胞に対する自己抗体がPCAで、悪性貧血と萎縮性胃炎が疑われる場合に測定される。特に悪性貧血では、この抗体と内因子抗体が産生され、抗胃壁細胞抗体の陽性率は75~100%と高いが、健常者でも10%以下、高齢者では10~15%程度が陽性となる。この抗体が陰性で、かつ血清ペプシノゲン値が低値の場合は胃癌のリスクが高いという報告があるので注意する。
【抗内因子抗体】
約60%の症例で陽性である。内因子は胃壁細胞から分泌され、ビタミンB12と結合し回腸で吸収されるため、ビタミンB12吸収に必須の物質である。IF-ABは内因子に対する自己抗体で、ビタミンB12と内因子の結合を阻害するI型抗体と内因子と回腸の内因子受容体との結合を阻害するII型抗体に分けられる。臨床的には悪性貧血の診断に高い有用性がある。悪性貧血の診断では抗胃壁細胞抗体も用いられているが、抗内因子抗体のほうが特異性が高く、I型抗体の陽性率は70%程度とされているが、II型抗体の陽性率は40%程度である。また、悪性貧血でも30%程度は抗内因子抗体が陰性である。悪性貧血の確認は1.大球性貧血と好中球過分葉。2.骨髄塗抹標本での巨赤芽球の検出。3.ビタミンB12と葉酸の測定。4.抗胃壁細胞抗体の検出。5.L-バリン負荷試験による尿中メチルマロン酸の高値。6.Schilling試験による。
【Shilling試験】
低値である。食物中のビタミンB12は空腸で、胃壁細胞から分泌される内因子と結合し回腸で吸収される。このため胃壁細胞や内因子など吸収に関与するいずれかの部分に障害があるとビタミンB12は不足し、巨赤芽球性貧血を発症する。この検査はビタミンB12の不足の原因を知るために行う検査である。
【ビタミンB12】
著しく低下し100pg/mL以下である、高齢者ではビタミンB12欠乏が貧血ではなく神経症状として現れることがある。ビタミンB12はビタミンB複合体の一種でDNA合成に関与している他、抗貧血因子として重要な働きを持っている。肝、卵黄、牛乳などに多量に含まれ、胃壁細胞から分泌される内因子と結合し小腸で吸収される。臨床的には欠乏症である巨赤芽球性貧血を疑う場合に測定するが、この貧血は葉酸欠乏でも起こるため両者の測定が必要である。
【甲状腺抗体】
患者の50%は抗体を有する。
検体検査以外の検査計画 上部消化管内視鏡検査

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