疾患解説
フリガナ |
カンサイボウガン |
別名 |
原発性肝細胞癌 悪性腫瘍(肝)
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臓器区分 |
消化器疾患
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英疾患名 |
Hepatocellular Carcinoma/Hepatoma
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ICD10 |
C22.0
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疾患の概念 |
肝細胞由来の悪性腫瘍で、慢性肝炎、肝硬変などの慢性肝疾患が背景にある。特にC型肝炎やアルコール性肝硬変からの発癌率は高いが、ヘモクロマトーシス、アフラトキシン暴露、α1-アンチトリプシン欠損、チロシン血症も関連因子とされている。肝細胞癌以外の原発性肝癌として、線維層板状癌、胆管細胞癌、肝芽腫、血管肉腫がある。肝細胞癌の発症率は、B型肝炎ウイルス慢性感染の有病率と相関する。HBVキャリアは、肝細胞癌の発症リスクが100倍以上である。HBV-DNAが宿主のゲノムに組み込まれると、たとえ慢性肝炎や肝硬変がなくとも肝細胞癌に進行する可能性が高い。
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診断の手掛 |
腹痛、体重減少、発熱、右上腹部腫瘤の他に、安定していた肝硬変患者に原因不明の状態悪化が見られたら本症を疑う。また、発熱、血性腹水(約20%の患者)、腹膜炎、腫瘍からの出血によるショックが、初発症状のこともある。ときに、低血糖、赤血球増多、高Ca血症、高脂血症などの全身性の合併症を来す事もある。患者の70~80%は、AFP値が200ng/mL以上であり、その上昇は、異常プロトロンビンであるPIVKA-Ⅱ濃度と相関する。肝細胞癌以外のAFP高値は、はるかに頻度の低い腫瘍である精巣の奇形癌を除いて稀である。
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主訴 |
黄疸|Jaundice 下肢浮腫|Lower extremity edema 肝腫大|Hepatomegaly ショック|Shock 体重減少|Weight loss 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever 腹水|Ascites 腹痛|Abdominal pain 腹部圧痛|Abdominal tenderness 腹部腫瘤|Abdominal tumor/Abdominal mass 浮腫|Edema/Dropsy 右上腹部腫瘤|Right upper abdominal tumor 門脈圧亢進症状|Portal hypertension やせ|Weight loss
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鑑別疾患 |
転移性肝癌|Metastatic Neoplasm to Liver/Secondary Cancer of Liver 肝内胆管癌 肝炎 血管腫 肝硬変|Cirrhosis of Liver 脂肪肝|Fatty Liver 非アルコール性脂肪肝炎|Nonalcoholic Steatohepatitis(NASH) C型肝炎|Hepatitis C ヘモクロマトーシス|Hemochromatosis
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スクリーニング検査 |
α-Fetoprotein|α-フェトプロテイン [/PlF, /S] Albumin|アルブミン [/S] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S] Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/S] Activated Partial Thromboplastin Time|活性化部分トロンボプラスチン時間 [/P] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Aspartate Aminotransferase:Alanine Aminotransferase Ratio|AST:ALT比 [/S] Bilirubin-Total|総ビリルビン/ビリルビン [/S] Calcium|カルシウム [/S] CEA|癌胎児性抗原 [/AsF, /S] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S, /AsF] Cholinesterase|コリンエステラーゼ/ブチルコリンエステラーゼ/偽コリンエステラーゼ [/S] Creatinine|クレアチニン [/S] C-reactive Protein|C反応性蛋白 [/S] Erythrocytes|赤血球数 [/AsF, /B] Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B] Ferritin|フェリチン [/S] Fibrinogen|フィブリノゲン/凝固第I因子 [/P] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Hepatitis B Surface Antigen|HBs抗原 [/S] Immunoglobulin A|免疫グロブリンA [/S] Immunoglobulin G|免疫グロブリンG [/S] Immunoglobulin M|免疫グロブリンM/マクログロブリン [/S, /S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/AsF, /S] LDL-Cholesterol|LDL-コレステロール/低比重リポ蛋白コレステロール [/S] Leukocytes|白血球数 [/AsF, /B] Monocytes|単球 [/B] Platelets|血小板 [/B, /B] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/AsF] PSA|前立腺特異抗原 [/S] Prothrombin Time|プロトロンビン時間 [/P] Urea Nitrogen|尿素窒素 [/S] α2-Globulin|α2-グロブリン [/S] γ-Globulin|γ-グロブリン [/S] γ-Glutamyltranspeptidase|γ-グルタミルトランスペプチダーゼ/γ-グルタミルトランスフェラーゼ [/S, /Saliva]
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異常値を示す検査 |
5'-Nucleotidase|5'-ヌクレオチダーゼ [/S] Acid Ribonuclease|酸性リボヌクレアーゼ [/S] Adenosine Deaminase|アデノシンデアミナーゼ [/S] Alcohol Dehydrogenase|アルコール脱水素酵素 [/S] Alkaline Phosphatase Isoenzymes|アルカリホスファターゼアイソザイム/ALPアイソザイム [/S] Alkaline Phosphatase, Kasahara Isoenzyme|カサハラ・アイソザイム [/S] Alkaline Ribonuclease|アルカリ性リボヌクレアーゼ [/S] Anti-Hepatitis C Antibodies|C型肝炎ウイルス抗体/C100-3抗体/抗C型肝炎ウイルス抗体 [Positive/S] Anti-p53 Antibodies|抗p53抗体 [/S] Antithrombin III|アンチトロンビンIII/アンチトロンビン [/P] Antithyroglobulin Antibodies|抗サイログロブリン抗体/サイロイドテスト [/S] Basic Fibroblast Growth Factor|塩基性線維芽細胞成長因子 [/S] Biotin|ビオチン [/S] BSP Retention|BSP test/ブロムサルファレイン試験 [/S] c-erb-B2 Oncoprirein [/S] CA 125|CA125 [/S] CA 15-3|CA15-3 [/S] CA 19-9|CA19-9 [/S] CA 195 [/S] CA 242 [/S] CA 549 [/S] CA 72-4|CA72-4 [/S] Carbohydrate-deficient Transferrin|糖鎖欠損トランスフェリン [/S] Carcinoembryonic Antigen|癌胎児性抗原 [/AsF, /S] Cathepsin D|カテプシンD [/S] Collagen IV|Ⅳ型コラーゲン [/S] Cytokeratin 19 Fragment|サイトケラチン19フラグメント/シフラ/シフラ21-1/CYFRA [/S] Descarboxyprothrombin [/S] DU-PAN-2|DU-PAN-2 [/S] Endothelin|エンドセリン [/P] Endothelin-1|エンドセリン [/P] Erythropoietin|エリスロポエチン [/S] Fibrin and Fibrinogen Degradation Products|フィブリン・フィブリノゲン分解産物/線維素分解産物 [/AsF] Fucose|フコース [/S] Fucosidase|フコシダーゼ [/S] Galactosyltransferase Isoenzyme II [/S] Hepatitis B Virus-encoded X Antigen [/S] Hyaluronic Acid|ヒアルロン酸 [/S] Indocyanine Green Clearance|インドシアニングリーン試験/ICG試験 [/S] Laminin P1 [/S] LCA Affinity Fraction of α-Fetoprotein|AFP-L3分画比/LCA親和性AFP分画 [/S] Lipids|総脂質 [/S] Lysyl Oxidase [/S] Macrophage Colony Stimulating Factor|マクロファージコロニー刺激因子 [/S] Malate Dehydrogenase|リンゴ酸脱水素酵素 [/S] Metallopanstimulin [/S] N-terminal Peptide of Type III Procollagen [/S] Neopterin|ネオプテリン [/S, /U] Occult Blood|潜血反応(便)/グアヤック法/o-トリジン法/ラテックス凝集法 [/F] Ornithine Carbamoyl Transferase|オルニチンカルバミルトランスフェラーゼ [/S] Parathyroid Hormone-related Peptide|副甲状腺ホルモン関連蛋白 [/P] PIVKA-II|PIVKA-II/ピブカII/内因子性凝固阻止因子-II [/S] Prekallikrein|プレカリクレイン/Fletcher因子 [/P] Pro-Matrix Metalloproteinase 1 [/S] Procollagen 1 C-terminal Peptide [/S] Procollagen Type III Peptide|プロコラーゲンIIIペプチド [/S] Procollagen Type IV Peptide [/S] Progesterone|プロゲステロン/プロジェステロン [/P] Prolactin|プロラクチン/乳汁分泌ホルモン [/P] Proline Hydroxylase|プロリンヒドロキシラーゼ/プロリン水酸化酵素 [/S] Prolyl Hydroxylase [/S] Protein C|プロテインC/プロテインC抗原量 [/P] Pseudouridine|シュードウリジン [/AsF, /U] Putrescine|ポリアミン/プトレッシン [/U] Putrescine, Free|ポリアミン/プトレッシン [/U] Putrescine, N-monoacetylated [/U] Serine|セリン [/S] Sex-Hormone Binding Globulin|性ホルモン結合グロブリン [/S] Sialyltransferase [/S] Soluble E-Selectin|可溶性E-セレクチン/可溶性CD62E/可溶性ELAM-1 [/S] Soluble Intercellular Adhesion Molecule-1|可溶性ICAM-1/可溶性CD54/細胞接着分子-1 [/S] Soluble Interleukin-2 Receptor|可溶性 IL-2レセプター/IL-2レセプター/可溶性 IL-2受容体 [/S] Soluble Vascular Cell Adhesion Molecule-1|可溶性VCAM-1/可溶性CD106/可溶性血管細胞接着分子-1 [/S] Spermidine|スペルミジン [/U] Spermidine, Free|スペルミジン [/U] Spermidine, N1-acetylated [/U] Spermidine, N1-acetylated:N8-acetylated Ratio [/U] Spermidine, N8-acetylated [/U] Spermine|スペルミン [/U] Spermine, Free|スペルミン [/U] Tissue Inhibitor of Metalloproteinase-1|組織メタプロテアーゼインヒビター/コラゲナーゼインヒビター1 [/S] Tissue Inhibitor of Metalloproteinase-2 [/S] Tissue Plasminogen Activator|組織プラスミノゲンアクチベータ [/P] Tissue Polypeptide Antigen|組織ポリペプチド抗原 [/S] Transcobalamin I|トランスコバラミン [/S] Transcobalamin III|トランスコバラミン [/S] Transforming Growth Factor-β|形質転換成長因子-β/トランスフォーミング増殖因子-β [/S] Transforming Growth Factor-β1|形質転換成長因子-β/トランスフォーミング増殖因子-β [/S, /U] Urea|尿素 [/S] 131 I Uptake|131 I摂取率/放射性ヨウ素摂取率 [/S] α1-Acid Glycoprotein|α1-酸性糖蛋白/オロソムコイド/α1アシドグリコプロテイン [/S] α1-Antitrypsin|α1-アンチトリプシン [/S] α2-Macroglobulin|α2-マクログロブリン [/S] β-Chorionic Gonadotropin|ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット [/P] β-Glucuronidase|β-グルクロニダーゼ [/S] β1-Integrin|β1-インテグリン [/S] β2-Microglobulin|β2-ミクログロブリン/β2-マイクログロブリン [/S] β3-Integrin|CD61/GPIIIa/β3インテグリン [/S] δ-Aminolevulinic Acid|δ-アミノレブリン酸(尿)/5-アミノレブリン酸 [/U]
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関連する検査の読み方 |
【AFP】 肝硬変患者でAFPが200ng/mL以上あり、血管豊富な充実性腫瘍は肝癌を強く疑う。患者の60~90%はAFPが高値となる。また、治療後の再発モニターとしても感度が高い。睾丸の奇形癌を除いて400μg/Lを超えることは、肝癌以外に無い。AFPは胎生時に卵黄嚢と肝で産生され、胎生13週頃に最高値に達し、出生後250~300日で成人値になる糖蛋白である。臨床的には肝細胞癌、転移性肝癌、肝芽細胞腫やYolk Sac腫瘍で増加するので、これ等疾患の診断、治療効果判定、再発の指標に用いる。肝細胞癌では腫瘍の大きさが2cm以下では、半数以上がAFP値が100ng未満とされているが、肝硬変や慢性肝炎でも多くの症例が200~400ngであるため鑑別が困難な場合もあり、疑わしい場合はAFP-レクチン分画を併用する。 【ALPアイソザイム】 ALP2(肝性アイソザイム)が増加する。 【AFP-L3分画比】 10~15%以上になり、特異性が高い。AFPははレクチンに対する親和性が疾患で異なり、AFP-L1は慢性肝炎や肝硬変で、AFP-L3は肝細胞癌で増加する。臨床的には肝細胞癌と慢性肝炎や肝硬変との鑑別、肝細胞癌の治療効果判定に使われる。L3分画比10%をカットオフ値とすると肝細胞癌の診断感度は40%、特異度は90%である。また、L3分画比が低値の肝細胞癌は悪性度が低く治療抵抗性のものが少ないので予後の推定に用いる。 【AST:ALT比】 0.87以上である。 【LD:AST比】 LD5優位で5~20である。 【CBC】 通常は貧血、稀に多血症を認める。 【DU-PAN-2】 約半数の患者で増加する。DU-PAN-2はヒト膵癌細胞株を免疫原とするモノクローナル抗体に認識されるムチン様糖蛋白で膵癌、胆道癌、肝細胞癌で陽性率が高いマーカーである。良性疾患では急性肝炎、慢性活動性肝炎、肝硬変や胆道疾患で陽性になる。 【LD】 LD5が優位に増加する。 【PIVKA-II】 疾患特異性が高く、腫瘍の大きさとある程度相関する。AFPと相補関係にあるので両者の同時測定が望ましい。PIVKAは第II因子(プロトロンビン)、第VII因子、第IX因子、第X因子がビタミンK欠乏状態時に産生される異常蛋白でPIVKA-II、VII、IX、Xが存在するが、検査ではプロトロンビンの異性体であるPIVKA-IIが測定される。肝細胞癌で血中に出現し特異度が94%と高いため肝細胞癌のマーカーとして使われる。 【α-L-フコシダーゼ】 疾患特異性が高く、診断に有用といわれている。 【インスリン様成長因子-2】 高値のことがある。 【スーパーオキサイドディスムターゼ】 増加する。 【PT】 延長する。 【腹水一般検査】 患者の50%に腹水が見られ、しばしば血性になる。腫瘍細胞は検出されるとは限らない。 【肝生検】 確定診断に有用である。
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検体検査以外の検査計画 |
腹部超音波検査、造影超音波検査、造影CT検査、MRI検査、肝動脈造影検査、動注CT検査、PET検査
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