疾患解説
フリガナ | ゼンリツセンガン |
別名 | 悪性腫瘍(前立腺) |
臓器区分 | 腎・泌尿器疾患 |
英疾患名 | Cancer of Prostate |
ICD10 | C61 |
疾患の概念 | 前立腺の上皮細胞から発生する腺癌で、高齢者に多いアンドロゲン依存性癌である。腺管形成の程度により高分化腺癌、中分化腺癌、低分化腺癌に分類される。悪性度分類は病理組織パターンに基づき、Gleasonの組織分類として報告される。日本人の癌のなかで最も増加率が高い癌で、高齢、家族歴、食生活などの生活習慣が危険因子とされている。剖検によって初めて見つかる潜伏癌の割合は年齢により増加するが、85歳では 2~3人に 1人が潜伏癌を持つとされる。発生部位は前立腺の辺縁領域である。また、90%の前立腺癌は男性ホルモン依存性である。 |
診断の手掛 | 進行が遅いため病状が進んでからでないと症状が出ない、進行期には血尿と膀胱頸部の閉塞症状(いきみ、弱いまたは間欠的な尿流、残尿感、終末時尿滴下)、骨転移症状(骨盤・肋骨・椎体の骨痛)が主たる症状である。この癌は前立腺特異抗原(PSA)が基準値(4ng/mL)あるいは、年齢階層別基準値を超えることで見つかることが最も多い。多くの前立腺癌患者は年齢的に BPH を合併しているため、BPH による排尿障害を主訴とすることも多い。ただし、局所浸潤癌および遠隔転移癌でも70%以上は無症状であるので注意する。 |
主訴 |
下肢痛|Calf pain 下半身麻痺|Lower body palsy 血尿|Hematuria 残尿感|Residual urine 排尿障害|Urinary disturbance/Dysuria 排尿痛|Scalding/Micturition pain 膀胱痛|Cystalgia 腰痛|Low back pain/Lumbago |
鑑別疾患 |
転移性骨腫瘍 過活動膀胱 水腎症|Hydronephrosis 前立腺炎 前立腺肥大症|Benign Prostatic Hypertrophy(BPH) 低Ca血症|Hypocalcemia 低リン血症|Hypophosphatemia 尿毒症 尿路感染症|Urinary Tract Infection(UTI) 貧血 |
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/S] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/WBC, /S] Amylase|アミラーゼ [/S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Calcium|カルシウム [/S, /U] CEA|癌胎児性抗原 [/S] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S, /S, /U] Creatine Kinase|クレアチンキナーゼ/クレアチンホスホキナーゼ [/S] Creatinine|クレアチニン [/S] Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Immunoglobulin A|免疫グロブリンA [/S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S, /U] Monocytes|単球 [/B] Phosphate|無機リン [/S] PSA|前立腺特異抗原 [/S] Transferrin|トランスフェリン [/S] Uric Acid|尿酸 [/S] γ-Glutamyltranspeptidase|γ-グルタミルトランスペプチダーゼ/γ-グルタミルトランスフェラーゼ [/S] |
異常値を示す検査 |
Acid Phosphatase|酸性ホスファターゼ [/Bone Marrow, /S] Prostatic Acid Phosphatase|前立腺酸性ホスファターゼ [/S] Acid Phosphatase, Tartrate Resistant|骨型酒石酸抵抗性フォスファターゼ [/S] Acylcarnitine, Acid-insoluble [/S] Acylcarnitine, Acid-soluble [/S] Adenosine Deaminase|アデノシンデアミナーゼ [/S] Aldolase|アルドラーゼ/アルドラーゼアイソザイム [/S] Alkaline Phosphatase, Bone Isoenzyme|骨型アルカリホスファターゼ/骨性ALP [/S] Amino-terminal Propeptide of Type I Procollagen [/S] Anti-p53 Antibodies|抗p53抗体 [/S] Apolipoprotein D [/S] c-erb-B2 Oncoprirein [/S] CA 15-3|CA15-3 [/S] CA 19-9|CA19-9 [/S] CA 27-29 [/S] CA 549 [/S] Calcitonin|カルシトニン [/P] Carnitine|カルニチン分画/ビタミンBT [/S] Carnitine, Nonesterified [/S] Ceruloplasmin|セルロプラスミン/フェロオキシダーゼ [/S] Chromogranin-A|クロモグラニンA [/S] Complement C3|補体第3成分/β1C・β1Aグロブリン/C3 [/S] Complement C4|補体第4成分/β1Eグロブリン/C4 [/S] Complement, Total|補体価/CH50 [/S] Creatine Kinase BB-Isoenzyme|CK-BB [/S] Cytokeratin 19 Fragment|サイトケラチン19フラグメント/シフラ/シフラ21-1/CYFRA [/S] Deoxypyridinoline|デオキシピリジノリン [/U] Fibrin and Fibrinogen Degradation Products|フィブリン・フィブリノゲン分解産物/線維素分解産物 [/P] PSA Free:PSA Total Ratio [/S, /S] Free Prostate-specific Antigen Percentage [/S] Galactosyltransferase Isoenzyme II [/S] Gonadotropin, Pituitary|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [/P] Insulin-like Growth Factor [/S] Insulin-like Growth Factor Binding Protein-2 [/S] Insulin-like Growth Factor Binding Protein-3|インスリン様成長因子結合蛋白-3型/IGF結合蛋白-3 [/S] Insulin-like Growth Factor-I|インスリン様成長因子-1/ソマトメジンC [/S] Insulin-like Growth Factor-II|インスリン様成長因子-2 [/S] Interleukin-8|インターロイキン-8 [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzyme-5|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzymes|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Luteinizing Hormone|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [/P] Matrix Metalloproteinase-2 [/S] Metallopanstimulin [/S] Neopterin|ネオプテリン [/S] Neuron-specific Enolase|神経特異エノラーゼ [/S] Pancreastatin [/S] Phospholipase A|ホスホリパーゼA [/S] Pro-Kallikrein 2 [/S] Procollagen 1 C-terminal Peptide [/S] Prostate-specific Antigen, Complexed [/S] Prostate-specific Antigen, Free|γ-セミノプロテイン [/S] Pyridinoline|ピリジノリン [/U] Sialic Acid, Lipid-associated [/S] Sialyltransferase [/S] Soluble CD44 Splice Variant 5 [/S] Soluble CD44 Standard [/S] Tenascin-C [/S] Tissue Factor Pathway Inhibitor [/P] α-Enolase [/S] α1-Antichymotrypsin|α1-アンチキモトリプシン [/S] β-Chorionic Gonadotropin|ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット [/P] |
関連する検査の読み方 |
【HER2/neu遺伝子】 増幅を認める。 【HER2/neu蛋白】 過剰に発現する。HER2蛋白は癌遺伝子HER-2/neuの産物で細胞の増殖と分化に関与するシグナル伝達系の一部を担当している。HER2/neu遺伝子は 乳癌や胃癌などで過剰発現が認められ、乳癌では20~30%程度に発現しているが、これは細胞膜にHER-2蛋白の存在を意味する。臨床的には癌の再発や重症化を規定する予後推定因子として、またホルモン療法や化学療法の効果を規定する因子として測定される。 【I型コラーゲンC末端テロペプチド】 骨転移の患者の約61%で高値である。 【I型プロコラーゲンC末端プロペプチド】 骨転移で高値を示す。 【PSA】 単独でのスクリーニング検査は感度、特異度が十分でない。限局性癌の約45%、非限局性癌の25%はPSAが10ng/mL以下である。100ng/mLを越えれば骨転移を考える。 【PSA density】 PSAを前立腺の体積で割った値で0.1以上である。 【前立腺特異抗原・α1-アンチキモトリプシン複合体】 1.1ng/mL以上である。PSA-ACTは血清中では、その60~90%がα1アンチキモトリプシンやα2マクログロブリンと結合し複合体を形成しており、残りはfree PSAとして存在している。日常検査で測定されているPSAはPSA-ACTとfree PSAの総和であり、最近は前立腺癌診断の特異性の高いPSA-ACTの有用性が認められ日常検査としても用いられるようになってきた。臨床的には前立腺癌のスクリーニング診断、治療効果判定、経過観察に用いる。 【PSA値に影響する因子】 前立腺炎と急性尿閉で増加。激しい運動後と前立腺マッサージで2~3倍未満の増加が見られる。 【PSA変化率】 早期癌では増加率が大きい(0.75ng/mL/年)。前立腺肥大症と癌の鑑別が可能である。 【フリーPSA:トータルPSA比】 15~25%以下である。生検の根拠となる。PSAは血清中ではα1-アンチキモトリプシンおよびα2-マクログロブリンと結合し複合体を形成しているが、一部は遊離型PSAとして存在している。前立腺癌患者では結合型PSAの割合が高いことが知られている。このため、前立腺癌ではフリーPSA/トータルPSA比(F/T比)が前立腺良性疾患より低くなる。臨床的にはPSA値がグレイゾーン(4~10ng/mL)にある場合、F/T比を求め診断の特異性を向上させる。 【前立腺酸性ホスファターゼ】 癌の局所浸潤や転移をみる検査で骨転移患者の60~75%、局所浸潤の20%で増加する。手術後とエストロゲン治療開始後2週以内に活性低下を認める。ホスファターゼはヒトの組織や臓器中に広く分布し、そのアイソザイムであるPAPは前立腺に他の臓器の1000倍以上存在する。しかし、この酵素は前立腺のみに分布するものではなく、前立腺切除後も血清中に測定可能な濃度で存在する。陽性率は前立腺癌転移症例では70~100%と高率であるが、非転移症例ではPSAに比べ低いことから前立腺腫瘍マーカーとしての有用性は無くなりつつある。 【α2-マクログロブリン】 治療効果判定に用いる。α2-Mは分子量72.5万の巨大蛋白でトロンビン、プラスミン、プラスミノゲンアクチベータ、カリクレインなどに結合しプロテアーゼ活性を阻害する。また、ネフローゼ症候群では肝での合成が高まるが、巨大分子のため腎から排泄されにくいので血中濃度が増加する。このため血清蛋白電気泳動で、α2分画が突出した特異の泳動パターンが見られる。前立腺癌の骨転移では癌細胞に関連したプロテアーゼと結合し消費されるため、α2-MGが極端に低値を示すことがある。 【尿沈渣】 膀胱浸潤例で異型細胞(腺癌細胞)を認めることがある。 【前立腺生検】 50歳以上でPSA値が4ng/mL以上なら生検の適応である。若年者では2.5ng/mL以上を適応とする。 【組織プラスミノゲンアクチベータ】 高頻度に増加する。 【治療モニターとしてのPSA】 全摘術のモニターで、基準範囲内に低下しなければ癌組織残存か転移を考える。モニターとしてはPAPより優れている。 |
検体検査以外の検査計画 | 経直腸超音波断層法、胸腹部CT検査、骨シンチグラフィ、骨盤MRI検査、直腸診 |