疾患解説
フリガナ | アルツハイマービョウ |
別名 | アルツハイマー型認知症 |
臓器区分 | 精神疾患 |
英疾患名 | Alzheimer's Disease |
ICD10 | G30.9 |
疾患の概念 | アルツハイマー病は、最も頻度が高い認知症で、高齢者の認知症の60~80%を占める。大脳皮質および皮質下灰白質にβアミロイド沈着と神経原線維変化を特徴とする進行性の認知機能低下を引き起こす疾患で、典型的症例は、記憶および視空間に関する能力の低下である。健忘性軽度認知機能障害を有する人は、記憶障害が無い同年齢層よりも本症を発症する可能性が高い。第1、12、14、19、21染色体上に位置する少なくとも5つの遺伝子座が、アルツハイマー病の発症と進行に関係している。この遺伝子変異を持つ患者に、アミロイド前駆体タンパクのプロセシングに変化が起きることで、βアミロイドの沈着および線維凝集が生じる。このβアミロイドによりニューロン死、神経原線維変化および老人斑が形成される。その他の遺伝学的な決定因子として、apo E蛋白がある。apo E蛋白は、βアミロイド沈着、細胞骨格およびニューロンの修復に影響を及ぼす。典型的な病理所見は、細胞外のβアミロイド沈着、細胞内の神経原線維変化と老人斑が生じることによるニューロンの消失である。大脳皮質の萎縮がよくみられ、大脳のグルコース利用が低下する。その他の異常として、脳および髄液中のタウ蛋白の増加、コリンアセチルトランスフェラーゼおよびソマトスタチンなどの神経伝達物質の濃度低下が見られる。 |
診断の手掛 |
主として40歳以上の中~高齢者に、自分自身が障害に気づかない短期記憶の喪失や記銘力障害を認めたら本症を疑う。また、進行性の近時記憶障害、日常生活や仕事に支障を来す記憶と認知機能障害、取り繕い反応などが見られたら積極的に検査を行う必要がある。 【診断基準:National Institute on Aging-Alzheimer's Association】 以下の条件をすべて満たす: 1.認知または行動(神経心理学的)症状が仕事や普段の日常活動を行う能力を妨げている。2.それらの症状が以前の機能レベルからの低下を反映している。3.それらの症状をせん妄または重大な精神障害によって説明することができない。 認知または行動障害は以下のうち2つ以上の領域でみられる必要がある: 1.新しい情報を獲得して記銘する能力の障害(健忘)2.言語機能障害(失語)3.視空間認知障害(失認;人の顔や一般的な物を認識できない)4.推理,複雑な課題の処理、および/または判断を含む遂行機能の障害(失行)5.パーソナリティ、行動、または態度の変化 |
主訴 |
意欲低下|Loss of motivation 記憶障害|Memory impairment 見当識障害|Disorientation 言語障害|Language disorder/Allophasis 構音障害|Dysarthria 行動異常|Behavior abnomality 失認|Agnosia 人格変化|Personality change 認知障害|Cognitive impaorment/Dementia |
鑑別疾患 |
エイズ/HIV感染症|Acquired Immune Deficiency Syndrome(AIDS) 器質性脳症候群 甲状腺機能低下症|Hypothyroidism 血管性認知症 Lewy小体型認知症 脳血管障害 薬物中毒 うつ病|Depression 前頭側頭葉変性症 せん妄 特発性正常圧水頭症 クロイツフェルト-ヤコブ病 |
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/S] Calcium|カルシウム [/CSF, /S] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S] Creatinine|クレアチニン [/U] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S] Immunoglobulin A|免疫グロブリンA [/S] Immunoglobulin G|免疫グロブリンG [/S] Immunoglobulin M|免疫グロブリンM/マクログロブリン [/S] LDL-Cholesterol|LDL-コレステロール/低比重リポ蛋白コレステロール [/S] Magnesium|マグネシウム [/S] Phosphate|無機リン [/CSF, /S] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/CSF] Transferrin|トランスフェリン [/S] Triglycerides|トリグリセリド/中性脂肪/トリグリセライド/トリアシルグリセロール [/S] |
異常値を示す検査 |
1,25-Dihydroxy Vitamin D|1,25-ジヒドロキシビタミンD3/1α,25-ジヒドロキシビタミンD/活性型ビタミンD [/S] 25-Hydroxy Vitamin D|25-ヒドロキシビタミンD/25OHビタミンD [/S] 5-Hydroxyindoleacetic Acid|5-ヒドロキシインドール酢酸 [/CSF] 7α-Hydrooxydehydroepiandrosterone Fatty Acid Esters [/S] 7α-Hydrooxydehydroepiandrosterone, Free [/S] 7α-Hydrooxydehydroepiandrosterone, Sulfate [/S] 7α-Hydrooxydehydroepiandrosterone, Total [/S] Acetylcholinesterase G4 Isoenzyme [/S] AD7c-NTP [/CSF] Ammonia|アンモニア [/B] Amyloid P [/S] Amyloid β-Protein Precursor|アミロイドβ蛋白質前駆体 [/CSF] Angiotensin-converting Enzyme|アンギオテンシン変換酵素 [/CSF] Antioxidant Capacity [/S] Apolipoprotein B|アポリポ蛋白B [/S] Apolipoprotein E|アポリポ蛋白E [/S, /S] Apolipoprotein E Genotype|アポE遺伝子型 [/B] Arginine Vasopressin|アルギニンバゾプレッシン/抗利尿ホルモン/バゾプレシン [/CSF] Catalase|カタラーゼ [/RBC] Cathepsin B|カテプシンB/カテプシンL [/CSF] Ceruloplasmin Ferroxidase|セルロプラスミン/フェロオキシダーゼ [/S] Choline Acetyltransferase [/S] Copper|銅 [/S] Copper Zinc Superoxide Dismutase|スーパーオキサイドディスムターゼ/スーパーオキサイドジスムターゼ [/RBC] Corticotropin-Releasing Hormone|副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン/ACTH放出ホルモン [/CSF] Cortisol|コルチゾール [/P] Creatine Kinase BB-Isoenzyme|CK-BB [/S] Dehydroascorbic Acid|デヒドロアスコルビン酸 [/CSF] Dehydroascorbic Acid:Ascorbic Acid Ratio [/CSF] Dehydroepiandrosterone Sulfate|デヒドロエピアンドロステロンサルフェート [/P] Dipeptidyl Peptidase III [/CSF] Dipeptidyl Peptidase IV [/CSF] Endothelin-1|エンドセリン [/CSF] Epinephrine|カテコールアミン総 [/CSF, /P] F2-Isoprostane [/CSF] GM1-Ganglioside|GM1-ガングリオシド [/CSF] Haptoglobin|ハプトグロビン [/S] Homovanillic Acid|ホモバニリン酸 [/CSF, /P] Hydroxyproline|総ヒドロキシプロリン/ヒドロキシプロリン [/U] Insulin|インスリン [/P] Insulin-Like Growth Factor-I|インスリン様成長因子-1/ソマトメジンC [/S] Insulin:Glucose Ratio [/P] Interleukin-6|インターロイキン-6 [/CSF] Ionized Calcium|イオン化カルシウム/Caイオン [/S] Large Unstained Cells [/B] Lymphocyte response to Phytohemagglutinin [/B] Monoamine Oxidase|モノアミンオキシダーゼ [/Platelets] Monoamine Oxidase-B|モノアミンオキシダーゼB/MAO酸化酵素B [/Platelets] Norepinephrine|カテコールアミン総 [/CSF, /P] Neural Thread Protein [Positive/U,Positive/CSF] Osteocalcin|オステオカルシン [/S] Parathyroid Hormone|副甲状腺ホルモン [/P] Protein Kinase C|プロテインキナーゼ C [/Platelets] Selenium|セレン/セレニウム [/B] Sialyltransferase [/S] Soluble Interleukin-6 Receptor [/CSF] Soluble β-Amyloid Peptide 40 [/S] Soluble β-Amyloid Peptide 42 [/S] Somatostatin|ソマトスタチン [/CSF] Substance P|サブスタンスP/ニューロキニンA [/CSF] Sulfatide|スルファチド [/CSF] Superoxide Dismutase|スーパーオキサイドディスムターゼ/スーパーオキサイドジスムターゼ [/RBC] Tau Protein|タウ蛋白 [/CSF] tert-Butyl Hydroperoxide-initiated Chemiluminescence [/RBC] Thyrotropin Releasing Hormone|甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン [/CSF] Transforming Growth Factor-β2 [/CSF] Transthyretin|トランスサイレチン/プレアルブミン [/S] Truncated Nerve Growth Factor Receptor [/U, /U] Tumor Necrosis Factor-α|腫瘍壊死因子-α [/S, /S] Ubiquitin [/CSF] Vitamin B12|ビタミンB12/コバラミン/シアノコバラミン [/S] Vitamin C|ビタミンC/アスコルビン酸 [/CSF] Zinc|亜鉛 [/S] α1-Antichymotrypsin|α1-アンチキモトリプシン [/S] α2,3-Sialoglycoprotein [/S] α2,3-Sialyltransferase [/S] β-Amyloid [/CSF] β2-Microglobulin|β2-ミクログロブリン/β2-マイクログロブリン [/CSF] γ-Aminobutyric Acid|γ-アミノ酪酸 [/CSF] |
関連する検査の読み方 |
【基本的検査】 臨床検査としてTSH、ビタミンB12、HIV、梅毒血性反応を行う。 【アポE遺伝子型】 ε4保有者は本症の発症頻度が高いといわれる。ε4アレルを2つ有する人はこのアレルを有さない人々と比較して75歳までにアルツハイマー病を発症するリスクが10~30倍高い。アポリポ蛋白EはCMレムナントやVLDLの肝への取り込みに関与しており、マクロファージと親和性が高いことから動脈硬化に関係するとされている。また、脳に沈着するアミロイド蛋白の一つでもあり、脳神経の伸展やmicrotubuleの形成を阻害する作用を持つ。アポリポ蛋白Eには3種のアイソフォームが存在するが、ε4は晩発性アルツハイマー病に、またε2は家族性III型高脂血症と関係している。 【オリゴクローナルバンド】 多発性硬化症、神経梅毒等の神経疾患で陽性であるので、鑑別に有用である。髄液蛋白電気泳動像で複数のモノクローナルバンドが認められたときにオリゴクロナールバンドと呼び、ある種のリンパ球が活性化され複数のM蛋白を産生した結果と考えられている。臨床的には多発性硬化症、中枢神経系炎症疾患、変性疾患の髄液中に出現するが、特に多発性硬化症での陽性率が高いことから、当該疾患の診断に用いられる。我が国のMS患者の約50%はオリゴクロナールバンドが陽性とされており、MSの診断に高い有用性を持つ、ただし中枢神経系の炎症や変性疾患でも陽性となることがある。 【コリンアセチルトランスフェラーゼ】 低下する。ChATはアセチルCoAとコリンを基質にして神経伝達物質のアセチルコリンを産生する際に働く酵素で、神経細胞内で合成され軸索輸送により神経終末に運ばれる。ヒトでは、コリンアセチルトランスフェラーゼはCHAT遺伝子によりコードされている。アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症患者ではコリン作動性神経の機能が低下している。また、レビー小体型認知症患者では初期からコリンアセチルトランスフェラーゼが低下していることが知られている。 【アミロイドβ蛋白】 Aβ蛋白は健常な脳では産生から排出まで恒常的なバランスを保っているが、Alzheimer病の脳ではこのバランスが崩れ、Aβがアミロイドに変わり細胞間に沈着し老人斑を形成すると考えられている。AβはC末端の異なるAβ40とAβ42があるが、Aβ42は40に比べアミロイド線維形成能と神経毒性が強い。臨床的には脳脊髄液中のAβ42を測定するが、目的はAlzheimer病と他の認知症との鑑別と早期診断である。またタウ蛋白を測定しAD index=(tau×Aβ40/Aβ42)を算定すると、より鑑別診断の特異度が上がるとされている。 【髄液神経伝達物質】 HVA、5-HIAA、GABA、アセチルコリンエステラーゼが低下するので、補助診断に用いる。 【タウ蛋白】 髄液のタウ蛋白は増加する。タウ蛋白はチューブリンに結合し重合を促進し微小管を形成する作用がある微小管付随蛋白で、その性質から脳での発現が最も多い。この蛋白がリン酸化されると神経細胞内に沈着し神経原線維変化を起こしAlzheimer病となる。また、神経細胞やグリア細胞内に蓄積すればPick病、大脳皮質基底核変性症、進行性核上麻痺を引き起こす。臨床的には認知症患者の診断、Alzheimer病の診断とその他の認知症との鑑別などに用いる。 【尿ホモバニリン酸】 1.4mg/日以下に減少する。 【病理組織検査】 確定診断に必要である。 |
検体検査以外の検査計画 | ミニメンタルテスト(MMSE)、臨床認知症評価尺度(CDR)、短期記憶テスト、神経心理テスト、頭部CT検査、頭部MRI検査、SPECT検査、アミロイドPETトレーサー検査、脳波検査 |