疾患解説
フリガナ | キュウセイシキュウタイジンエン |
別名 | |
臓器区分 | 腎・泌尿器疾患 |
英疾患名 | Acute Glomerulonephritis |
ICD10 | N00.0 |
疾患の概念 | 急性に発症する顕微鏡的血尿、肉眼的血尿、蛋白尿、浮腫、高血圧、GFR低下などを呈する糸球体疾患である。起炎菌は連鎖球菌、肺炎球菌、クレブシエラ、ブドウ球菌、髄膜炎菌などの細菌、風疹、麻疹、ムンプス、インフルエンザなどのウイルス、梅毒トレポネーマ、マラリア、トキソプラズマなどが報告されているが、A群β溶血性連鎖球菌が80~90%を占め最も多い。3~10歳の若年者に好発し、男女比は約2:1である。溶連菌感染症では感染局所から血中に放出された腎炎惹起性抗原が、主にメサンギウム基質と糸球体基底膜に沈着し、この抗原に対して宿主が産生する循環抗体が、糸球体局所で免疫複合体を産生し、これにより糸球体病変が形成される。 |
診断の手掛 | A群β溶連菌の先行感染後(咽頭炎発症10日後、皮膚感染2週後)に無症候性の血尿、軽度の蛋白尿、浮腫、乏尿、高血圧を発症した患者を診たら本症を疑う。典型的な臨床症状は、乏尿性急性腎不全を合併し、腎炎症候群の全ての症状を兼ね備えたものである。 |
主訴 |
眼瞼浮腫|Palpebral edema 血尿|Hematuria 高血圧|Hypertension 上肢浮腫|Edema of upper extremity/Edema of superior limb 蛋白尿|Proteinuria 浮腫|Edema/Dropsy 乏尿|Oliguria 無尿|Anuria |
鑑別疾患 |
悪性黒色腫|Malignant Melanoma 腎細胞癌|Renal Cell Carcinoma(RCC) 大腸癌|Cancer of Colon 肺癌|Lung Cancer アミロイドーシス|Amyloidosis 鎌状赤血球症|Sickle Cell Disease 肝炎 強皮症 グッドパスチャー症候群|Goodpasture's Syndrome 血管炎症候群|Vasculitic Syndrome 細菌性心内膜炎 住血吸虫症|Schistosomiasis 心内膜炎 水痘 全身性エリテマトーデス|Systemic Lupus Erythematosus(SLE) トキソプラズマ症|Toxoplasmosis 肺炎|Pneumonia 梅毒|Syphilis ハンセン病|Leprosy 膜性増殖性糸球体腎炎|Membranoproliferative Glomerulonephritis 麻疹|Measles マラリア|Malaria ループス腎炎|Lupus Nephritis IgA腎症|IgA Nephropathy ヘノッホ-シェーンライン性腎炎 血管炎 |
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/S, /U] Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/U] Anti-Glomerular Basement Membrane Antibody|抗糸球体基底膜抗体/抗GBM抗体 [/S] Anti-Streptolysin O|抗ストレプトリジンO価/抗ストレプトリジン抗体 [/S] Calcium|カルシウム [/U] Chloride|クロール [/S] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S] Complement CH50|補体価/CH50 [/S] Creatinine|クレアチニン [/S] Eosinophils|好酸球 [/B] Erythrocytes|赤血球数 [/U] Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B] GFR|糸球体濾過量 [/U] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/U] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Immunoglobulin A|免疫グロブリンA [/S] Immunoglobulin G|免疫グロブリンG [/S] Leukocytes|白血球数 [/B, /U] Magnesium|マグネシウム [/S, /U, /U] Neutrophils|好中球 [/U] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/PlF, /S, /U] Sodium|ナトリウム [/S, /U] Urea Nitrogen|尿素窒素 [/S] α1-Globulin|α1-グロブリン [/S] α2-Globulin|α2-グロブリン [/S] |
異常値を示す検査 |
AHD|抗ヒアルロニダーゼ抗体 [/S] Aldosterone|アルドステロン [/U, /P, /U] Ammonia|アンモニア [/U] Anti-Deoxyribonuclease-B Antibody|抗デオキシリボヌクレアーゼB抗体/抗DNase-B抗体 [/S] Anti-Neutrophil Cytoplasm Antibodies|抗好中球細胞質プロテナーゼ-3抗体/抗好中球細胞質抗体/好中球細胞質抗体/C-ANCA/PR-3ANCA [/S] Arylsulfatase [/S] ASK|抗ストレプトキナーゼ抗体 [/S] Bicarbonate|血漿HCO3-濃度/重炭酸イオン [/S] Cells [/U] Ceruloplasmin|セルロプラスミン/フェロオキシダーゼ [/S] Complement C1|補体第1成分/C1 [/S] Complement C1q|補体複合体成分1q/C1q [/S] Complement C2|補体第2成分/C2 [/S] Complement C3|補体第3成分/β1C・β1Aグロブリン/C3 [/S, /S] Complement C4|補体第4成分/β1Eグロブリン/C4 [/S] Complement, Total|補体価/CH50 [/S] Copper|銅 [/S] Endothelin-1|エンドセリン [/P, /U] Erythrocyte Casts|円柱 [/U] Factor VIII|第VIII因子活性/抗血友病因子 [/P] Fatty Cast|脂肪円柱 [/U] Fibrin and Fibrinogen Degradation Products|フィブリン・フィブリノゲン分解産物/線維素分解産物 [/P] Glomerular Basement Membrane Antibody|抗糸球体基底膜抗体/抗GBM抗体 [/S] Granular Casts|円柱 [/U] Guanosine Monophosphate [/U] Hemoglobin Casts|円柱 [/U] Lipids|総脂質 [/U] Lipoprotein|リポ蛋白分画 [/S] Mean Platelet Volume|平均血小板容積 [/Platelets] N-Acetyl-Glucosaminidase|N-アセチルβ-D-グルコサミニダーゼ活性(尿)/尿中NAG活性 [/U] pH|尿pH [/U] Specific Gravity|比重(尿)/尿比重 [/U] Tryptophan|トリプトファン [/P] Type IV Collagen Peptide|Ⅳ型コラーゲン [/S] Tyrosine|チロシン [/P] Volume [/U, /P] 131 I Uptake|131 I摂取率/放射性ヨウ素摂取率 [/S] β-Glucuronidase|β-グルクロニダーゼ [/U] β-Hexosaminidase|β-ヘキソサミニダーゼ [/U] β2-Microglobulin|β2-ミクログロブリン/β2-マイクログロブリン [/U] |
関連する検査の読み方 |
【ASK】 2,560倍以上である。抗ストレプトキナーゼは溶血性連鎖球菌A・C群が産生する菌体外成分に一つであるストレプトキナーゼに対する抗体で、溶連菌感染を疑う時、溶連菌感染症の診断、経過観察、治療効果判定に用いる。 【ASO】 成人で250IU/mL以上である。小児では333IU/mL以上になる。ASOは溶血性連鎖球菌A・C・G群が産生する溶血毒ストレプトリジンOに対する中和抗体で、溶連菌感染のスクリーニング検査として頻用されている。臨床的には溶連菌感染のスクリーニング検査や診断の目的で用いる。ASOは通常、溶連菌感染後2週目ごろより上昇し、4~5週でピークとなる。このため、測定に際しては感染時期を考慮し、ペア血清で行うことが重要で、単一血清での判定は避けるべきである。陽性率は溶連菌感染症44~76%、リウマチ熱70~90%、急性糸球体腎炎50~71%とされている。 【AHD】 感染後2~3週で増加し、数ヵ月抗体価を持続する。抗体価と腎病変の重症度は比例しない。 【A群β溶血連鎖球菌迅速試験】 陽性である。A群溶血性連鎖球菌感染を疑わせる咽頭炎や扁桃炎の患者の咽頭拭い液を検体として菌体抗原を迅速に検出する検査である。臨床的には迅速に原因菌を確定することで、早期の感染コントロールが可能となる。ただし、検査材料中の菌数が少ない場合は、陰性となる可能性もあるので注意が必要である。また、最近増加が報告されている劇症型溶連菌感染症では、迅速検査の有用性が評価されているので、中高齢者の咽頭炎を見たら積極的に検査を進める。 【CBC】 白血球は多核白血球が増加する。浮腫がみられる時に軽度の貧血を認める。 【eGFR】 低値である。 【クレアチニンクリアランス】 低下する。 【抗DNase-B抗体】 A群溶連菌感染で高値を示す。DNase-BはStreptolysin Oと同じ溶血性連鎖球菌が産生する菌体外毒素の一つで、A群溶連菌の殆どの菌株が産生し、C群、G群では一部しか産生しないことから、A群溶血性連鎖球菌に特異性が高い。異常値を認めたらASO、ASK、急性相反応蛋白を測定する。臨床的にはスクリーニング検査としてASOが陽性を示した場合にA群溶血性連鎖球菌の感染をより確実にするために行う。 【抗好中球細胞質抗体】 急速進行性糸球体腎炎で陽性である。 【抗糸球体基底膜抗体】 急性進行性腎炎で高値を示す。抗糸球体基底膜抗体は腎糸球体基底膜に対する自己抗体で、この抗体が関与する腎炎は病理組織的には半月体形成腎炎、臨床上は急性進行性腎炎症候群の病態をとり、約50%の症例はGoodpasture症候群である。臨床的には急性進行性腎炎症候群の疑いがあれば、この抗体と抗好中球細胞質抗体を同時に測定し、抗好中球細胞質抗体関連腎炎と鑑別する。確定診断には腎生検が必要である。 【腎機能検査】 GFRが低下し、程度によりクレアチニンとUNが増加する。腎血漿流量(RPF)は基準範囲内か増加するがGFRが低下するので、濾過率(FF)は低下する。 【蛋白分画】 アルブミンの非特異的低下とα2-グロブリンの低下を認める。 【尿一般検査】 血尿は必発で30~50%の患者は肉眼的血尿を呈する。蛋白尿は比較的軽度(2g/日以下)で約1ヶ月で消失する。 【尿沈渣】 赤血球、白血球、赤血球円柱、白血球円柱、上皮円柱、顆粒円柱、赤血球と顆粒の混合円柱を認める。 【扁桃ぬぐい液細菌培養】 発症早期では溶連菌が証明できる。 【CH50】 発症早期(血尿出現の24時間前)にほぼ全症例に一過性のC3低下を認める。CH50の低下はC3と一致する。C4は初期に20~30%の患者で低下する。補体価は重症度と並行する。 【腎生検】 蛍光抗体染色では係蹄壁やメザンギウム領域にC3やIgGの沈着がみられる。電顕では係蹄壁の上皮下にhumpを認める。 |
検体検査以外の検査計画 | 腎超音波検査、腹部X線検査 |