疾患解説
フリガナ | マンセイコツズイセイハッケツビョウ |
別名 | 慢性顆粒球性白血病 |
臓器区分 | 血液・造血器疾患 |
英疾患名 | Chronic Myeloid Leukemia(CLM) |
ICD10 | C92.1 |
疾患の概念 | 腫瘍化した多機能造血幹細胞のうち、特に顆粒球系細胞の増加を来す疾患で、全白血病の15~20%を占める。Philadelphia(Ph¹)染色体の出現が特徴で、これにより形成されるBCR/ABL融合遺伝子が直接的な病因とされている。65歳前後に発症のピークがあり小児では稀である。殆どのCMLにフィラデルフィア染色体が認められるが、この染色体は、第9染色体と第22染色体の長腕間の相互転座t(9;22)(q34;q11)の結果生じる第22染色体由来の小型染色体であり、この転座が、CML発症に重要な役割を担っていることが証明されている。これは相互転座t(9;22)であり、癌遺伝子c-ablを含む9番染色体の一部が22番染色体に転座し、遺伝子BCRと融合したもので、融合遺伝子BCR-ABLは特異的なチロシンキナーゼの産生をもたらす。CMLは、慢性期、移行期、急性転化期の3段階に分けられる。慢性期は、初期の進行が緩徐な期間で、数カ月から数年続くことがある。移行期は、治療の不成功、貧血の悪化、進行性の血小板減少症または血小板増多症、脾腫の持続または悪化、クローン進化、好塩基球の増加および骨髄中または末梢血液中の芽球の増加がみられる時期である。急性転化期は、骨、中枢神経系、リンパ節、皮膚に芽球が蓄積し末梢血液中または骨髄中の芽球が20%超える増加を示す時期である。 |
診断の手掛 |
原因不明の易疲労感、脱力感、食欲不振、体重減少、発熱、寝汗、腹部膨満感などを訴える患者を診たら本症を疑う。症例の60~70%に脾腫が見られるので触診は重要な診断の手掛りになる。病勢の進行に伴い、脾腫が増大し、皮膚蒼白および出血が見られる。発熱、著明なリンパ節腫脹、斑丘疹性の皮膚浸潤は病状が悪化した時の症状なので、見逃さない。 【診断基準:新WHO基準】 1.末梢血の各成熟段階の好中球増加、好塩基球増加、血小板増加を認める。好塩基球増加は特徴的である。 2.著明な骨髄過形成の所見を認め、血球の成熟は正常である。 3.NAPスコア低値。 4.肝脾腫。 5.Ph染色体あるいはBCR-ABL融合遺伝子の検出が必須であるが、Ph染色体が陰性であっても、BCR-ABL融合遺伝子が陽性であればCMLと診断される。 |
主訴 |
易疲労感|Fatigue 肝腫大|Hepatomegaly 丘疹|Papule 骨痛|Osteodynia/Bone pain/Ostalgia 紫斑|Purpura 出血傾向|Bleeding tendency/Hemorrhagic diathesis 食欲不振|Anorexia 神経痛様疼痛|Neuralgic pain 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 体重減少|Weight loss 脱力感|Weekness 寝汗|Night sweats 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever 脾腫|Splenomegaly 貧血症状|Anemic symptom 微熱|Low grade fever/Febricula 腹痛|Abdominal pain 腹部膨満感|Sense of Abdominal fullness やせ|Weight loss リンパ節腫脹|Lymphadenopathy |
鑑別疾患 |
転移性骨髄腫瘍 急性骨髄性白血病|Acute Myeloid Leukemia(AML) 急性リンパ性白血病|Acute Lymphocytic Leukemia(ALL) 骨髄線維症|Myelofibrosis 細菌感染症 真性赤血球増加症 本態性血小板血症|Essential Thrombocythemia(ET) 特発性骨髄線維症 類白血病反応 |
スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [/S] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/Neutrophils, /WBC, /S, /WBC] Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/S] Activated Partial Thromboplastin Time|活性化部分トロンボプラスチン時間 [/P] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Basophils|好塩基球 [/B, /Bone Marrow] Calcium|カルシウム [/S, /U] CEA|癌胎児性抗原 [/S] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S] Creatinine|クレアチニン [/S] C-reactive Protein|C反応性蛋白 [/S] Eosinophils|好酸球 [/B, /Bone Marrow] Ferritin|フェリチン [/S] Fibrinogen|フィブリノゲン/凝固第I因子 [/P, /P] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S, /S] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B, /B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B, /B] Immunoglobulin A|免疫グロブリンA [/S] Immunoglobulin G|免疫グロブリンG [/S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] Leukocytes|白血球数 [/B] Lymphocytes|リンパ球 [/B] Monocytes|単球 [/B] Neutrophils|好中球 [/B, /Bone Marrow] Platelets|血小板 [/B, /B] Potassium|カリウム [/S] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/PlF] Prothrombin Time|プロトロンビン時間 [/P] Sodium|ナトリウム [/S] Triglycerides|トリグリセリド/中性脂肪/トリグリセライド/トリアシルグリセロール [/S] Urea Nitrogen|尿素窒素 [/S] Uric Acid|尿酸 [/S, /U] α1-Globulin|α1-グロブリン [/S] α2-Globulin|α2-グロブリン [/S] γ-Globulin|γ-グロブリン [/S] |
異常値を示す検査 |
1-Methylinosine [/U] Acid Phosphatase|酸性ホスファターゼ [/S] Acid Ribonuclease|酸性リボヌクレアーゼ [/S] Adenosine Deaminase|アデノシンデアミナーゼ [/S] Aldolase|アルドラーゼ/アルドラーゼアイソザイム [/S] Alkaline Phosphatase, Placental Isoenzyme|胎盤型アルカリホスファターゼ [/S] Alkaline Ribonuclease|アルカリ性リボヌクレアーゼ [/S] Anti-Neutrophil Cytoplasm Antibodies|抗好中球細胞質プロテナーゼ-3抗体/抗好中球細胞質抗体/好中球細胞質抗体/C-ANCA/PR-3ANCA [/S] Antithrombin III|アンチトロンビンIII/アンチトロンビン [/P] Arylsulfatase [/S, /WBC] Arylsulfatase A|アリルスルファターゼA [/WBC] Arylsulfatase B [/WBC] Cells [/Bone Marrow] Complement C4|補体第4成分/β1Eグロブリン/C4 [/S] Complement, Total|補体価/CH50 [/S] Creatine|クレアチン [/U] Elastase-α1-Proteinase inhibitor Complex [/S] EIP1L1-PDGFRa Fusion Gene [Positive/B] Erythrocyte Survival|赤血球寿命 [/RBC] Factor II|第II因子活性/プロトロンビン [/P] Factor V|第V因子活性/不安定凝固因子/プロアクセレリン/Acグロブリン [/P] Factor VIII|第VIII因子活性/抗血友病因子 [/P] Fat|脂肪(糞便) [/Bone Marrow] Fibrin and Fibrinogen Degradation Products|フィブリン・フィブリノゲン分解産物/線維素分解産物 [/P] Fucosyltransferase [/S] Granulocyte Colony Stimulating Factor|顆粒球コロニー刺激因子 [/S] Granulocyte-Macrophage Colony Stimulating Factor|顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 [/S] Hexoses, Protein-bound [/S] Histamine|ヒスタミン [/P] Interleukin-2|インターロイキン-2 [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzyme-5|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S, /RBC] Lactate Dehydrogenase Isoenzymes|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Lactoferrin|ラクトフェリン [/P] Leukocyte Alkaline Phosphatase Stein|アルカリホスファターゼ染色/NAPスコア/好中球ALP染色/白血球ALP染色 [/B] Lysozyme|リゾチーム/ムラミダーゼ/ムコペプタイド/グリコヒドロラーゼ [/S] Malate Dehydrogenase|リンゴ酸脱水素酵素 [/S] Metamyelocytes|後骨髄球 [/B] Myelocytes|骨髄球 [/B] Myeloperoxidase|ミエロペルオキシダーゼ抗原/MPO抗原 [/Granulocyte] N2,N2-Dimethylguanosine [/U] Naphthol-As-D-Chloroacetate Esterase [/Granulocyte] Neopterin|ネオプテリン [/U] Perchloric Acid Soluble Protein [/S] Philadelphia Chromosome|フィラデルフィア染色体 [Positive/Blood] Phosphoglucomutase|ホスホグルコムターゼ [/S] Plasminogen Antigen [/P] Pseudouridine|シュードウリジン [/U] Reticulocytes|網赤血球/レチクロサイト/網状赤血球数 [/B] Thrombin Time|トロンビン時間 [/B] Thrombomodulin|トロンボモジュリン [/P] Tumor Necrosis Factor-α|腫瘍壊死因子-α [/S] Vitamin B12|ビタミンB12/コバラミン/シアノコバラミン [/S] Vitamin B12 Binding Capacity|ビタミンB12結合能 [/S] Vitamin B12 Binding Capacity, Unsaturated [/S] Zinc|亜鉛 [/S] α-Ketoglutarate [/S] α-Mannosidase [/WBC] α2-HS Glycoprotein|α2-HSグリコプロテイン [/S] β2-Microglobulin|β2-ミクログロブリン/β2-マイクログロブリン [/S] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 血小板は基準範囲内か増加。末期には減少して血小板減少性紫斑病の所見を示す。血小板数は1.5万以下か100万/μL以上と様々である。末梢血の芽球、Ph染色体の欠如、骨髄線維化は予後不良である。好酸球と好塩基球が、最初はわずかに増加し、後期には著明に増加する。正色素性正球性の貧血で、その程度は経過観察、予後判定、病状進行の良い指標になる。白血球は最初骨髄系白血球の増加を認める。通常は20万~100万/μLになる。白血球が減少するとALP染色が陽性になる。リンパ球は相対的に減少する。ヘモグロビンは10g/dLより高くなる。 【血液像】 幼若顆粒球と好酸球及び好塩基球の絶対的増加がみられる。 【骨髄像】 顆粒球系細胞の著明な増加と染色体分析、bcr-abl融合遺伝子で診断を確定する。 【NAPスコア】 CMLでは低値であるが類白血病反応では高値を示す。末梢血液塗抹標本の好中球に存在するアルカリホスファターゼを化学的に染色して検出する検査で、アルカリホスファターゼが好中球の成熟とともに増加することから、細胞の成熟度を知るために行われる検査でNAP(neutrophil alkaline phosphatase) scoreと呼ばれている。臨床的には末梢血所見で類白血病反応を示すとき、CMLと真性赤血球増加症、骨髄線維症を鑑別するとき、汎血球減少が再生不良か発作性夜間ヘモグロビン尿症化を鑑別するときに有用である。 【LD】 増加する。特に再発の数週間前に増加し、寛解の数週間前に下降する。治療経過の良い指標となる。 【CD34陽性細胞】 基準範囲上限以上である。 【major BCR/ABLキメラmRNA】 キメラmRNAが検出される。この検査は白血病細胞から抽出したRNAを使い、major BCR-ABLキメラmRNAの有無を調べるものである。major BCR-ABLキメラmRNAが検出されれば、BCR遺伝子領域内が切断されABL遺伝子と融合し、白血病の発病に関与していることが証明される。これにより、癌遺伝子の変異が直接検出され癌の病因診断が可能となる。臨床的には慢性骨髄性白血病や急性リンパ性白血病の治療後に残存する微小病変(細胞)の追跡、CMLやALL細胞の特異的高感度マーカーとして用いる。 【p53遺伝子】 遺伝子変異を認める。 【フィラデルフィア染色体】 初期の患者の95%にみられ慢性安定期、芽球期にも持続して認められる。陰性例は通常慢性単球性白血病である。t(9;22)(q34;q11)は9番染色体と22番染色体の相互転座であり、これにより9番染色体に存在するabl遺伝子が22番染色体上のbcr遺伝子と組み換えを起こしキメラ遺伝子を形成したものである。このキメラ蛋白は高いチロシンキナーゼ活性を持ち慢性骨髄性白血病の発症に関与しているとされる。この染色体異常は慢性骨髄性白血病で90%以上、急性リンパ性白血病では成人の20~30%、小児の約5%に認められる。 【TdT活性】 リンパ芽球性への急性転化で高値を示す。TdTはDNA合成酵素で殆どが胸腺皮質リンパ球とリンパ芽球様細胞に存在する。また、悪性のpre B細胞、pre T細胞と白血病細胞にも見られる。臨床的にはリンパ性の腫瘍性疾患、急性リンパ球白血病、慢性骨髄性白血病の急性リンパ球性転化細胞などの診断に用いる。特にALLでは90%に認められる。 【直接Coombs試験】 30%の患者で陽性である。 【尿沈渣】 時として尿中に白血病細胞を認める。 【急性転化】 より進行すると急性転化が起こり、骨髄芽球性(患者の60%)、リンパ芽球性(30%)、巨核芽球性(10%)が見られる。 |
検体検査以外の検査計画 | 腹部X線検査、腹部CT検査 |