疾患解説
フリガナ | イガン |
別名 | 悪性腫瘍(胃) |
臓器区分 | 消化器疾患 |
英疾患名 | Gastric Cancer |
ICD10 | C16.9 |
疾患の概念 | 胃粘膜の上皮細胞から発生する悪性腫瘍で、Helicobacter pyloriが発症に関与していると考えられている。わが国では、男女ともに死因の上位を占めている。H.pylori胃炎は、胃癌の強い危険因子で相対リスクは2~6倍になる。また、自己免疫性萎縮性胃炎や様々な遺伝因子も危険因子である。胃ポリープは、前癌病変の可能性がある。炎症性ポリープは、NSAIDs投与患者に発生することがあり、胃底腺ポリープは、プロトンポンプ阻害薬投与患者でよくみられる。 |
診断の手掛 | 消化性潰瘍を示唆する消化不良、胃膨満感を訴える中年以降の患者を診たら本症を疑う。患者も医師も消化器症状は甘く見る傾向があるので、危険年齢の患者が消化器症状を訴えたら積極的に検査を行う。危険因子としての自己免疫性萎縮性胃炎、消化管間質性腫瘍に注意する。特に男性が鉄欠乏性貧血を来した場合は積極的に検査を進める。 |
主訴 |
嚥下障害|Dysphagia 嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 下血|Melena 消化管出血|Gastrointestinal bleeding 消化不良|Dyspepsia 食欲不振|Anorexia 心窩部痛|Epigastralgia/Epigastric pain/Upper abdominal pein 上腹部膨満感|Sense of upper abdominal fullness 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 体重減少|Weight loss 吐血|Hematemesis 貧血症状|Anemic symptom 腹痛|Abdominal pain やせ|Weight loss |
鑑別疾患 |
悪性リンパ腫|Malignant Lymphoma 胃MALTリンパ腫 胃炎|Gastritis カルチノイド症候群|Carcinoid Syndrome 転移性悪性腫瘍 粘膜下腫瘍 びらん性胃炎 貧血 ヘリコバクターピロリ感染症|Helicobacter Pylori Infection 胃ポリープ 胃潰瘍 Menetrier病 |
スクリーニング検査 |
α-Fetoprotein|α-フェトプロテイン [/S] Albumin|アルブミン [/S] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/WBC, /S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] CEA|癌胎児性抗原 [/AsF, /PeF, /PlF, /S] Chloride|クロール [/S] C-reactive Protein|C反応性蛋白 [/S] Erythrocytes|赤血球数 [/AsF] Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Immunoglobulin A|免疫グロブリンA [/S] Immunoglobulin G|免疫グロブリンG [/S, /S] Immunoglobulin M|免疫グロブリンM/マクログロブリン [/S, /S] Iron|鉄/血清鉄 [/S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/Gastric Material, /S] Leukocytes|白血球数 [/AsF, /B] Lymphocytes|リンパ球 [/B] MCH|平均赤血球ヘモグロビン量 [/B] MCHC|平均赤血球ヘモグロビン濃度 [/B] MCV|平均赤血球容積 [/B, /B] Monocytes|単球 [/B] Neutrophils|好中球 [/B] Platelets|血小板 [/B] Potassium|カリウム [/S] Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [/S, /AsF] TIBC|総鉄結合能 [/S] Transferrin|トランスフェリン [/S] Uric Acid|尿酸 [/S] |
異常値を示す検査 |
Aldolase|アルドラーゼ/アルドラーゼアイソザイム [/S] Alkaline Phosphatase Isoenzymes|アルカリホスファターゼアイソザイム/ALPアイソザイム [/S] Amyloid A Protein|血清アミロイドA蛋白/アポSAA/アミロイドA蛋白 [/S] Androgens|テストステロン/総テストステロン/アンドロゲン [/U] Androsterone|アンドロステロン [/U] Anti-Parietal Cell Antibody|抗胃壁細胞抗体/胃壁細胞抗体 [/S] Arginase|アルギナーゼ [/S] Arginine|アルギニン [/P] Basic Fibroblast Growth Factor|塩基性線維芽細胞成長因子 [/S] c-erb-B2 Oncoprirein [/S] CA 125|CA125 [/S] CA 15-3|CA15-3 [/S] CA 19-9|CA19-9 [/S] CA 195 [/S] CA 242 [/S] CA 50|CA50 [/S] CA 549 [/S] CA 72-4|CA72-4 [/S] Ceruloplasmin|セルロプラスミン/フェロオキシダーゼ [/S] Complement C3|補体第3成分/β1C・β1Aグロブリン/C3 [/S] Complement C4|補体第4成分/β1Eグロブリン/C4 [/S] Complement, Total|補体価/CH50 [/S] Copper|銅 [/S] Copper Zinc Superoxide Dismutase|スーパーオキサイドディスムターゼ/スーパーオキサイドジスムターゼ [/S] Creatine Kinase BB-Isoenzyme|CK-BB [/S] Cryofibrinogen|クリオフィブリノゲン [/P] DU-PAN-2|DU-PAN-2 [/S] Epidermal Growth Factor|上皮細胞増殖因子/上皮細胞成長因子 [/U] Epidermal Growth Factor Receptor|上皮細胞増殖因子レセプター/上皮細胞成長因子レセプター/EGFレセプター [/S] Etiocholanolone|エチオコラノロン [/U] Fucose|フコース [/S] Gastrin|ガストリン [/S] Glutamine|グルタミン [/P] Gonadotropin, Pituitary|黄体形成ホルモン・卵胞刺激ホルモン/性腺刺激ホルモン [/P] Growth Hormone|成長ホルモン [/P] Haptoglobin|ハプトグロビン [/S] Helicobacter pylori IgA Antibodies|ヘリコバクター・ピロリ抗体/抗ヘリコバクター・ピロリ抗体 [/S] Hexokinase|ヘキソキナーゼ(赤血球) [/S] Hydrochloric Acid [/Gastric Fluid, /Gastric Fluid] Immunoglobulin E|免疫グロブリンE/非特異的IgE/レアギン抗体 [/S, /S] Iron Saturation|鉄飽和度 [/S] KMO-1|KMO-1 [/S] Lactate|乳酸/ラクテート [/B, /Gastric Material] Laminin|ラミニン [/S] N-Acetylputrescine [/U] N-Acetylspermidine [/U] NCC-ST-439|NCC-ST-439 [/S] Neopterin|ネオプテリン [/U] Neuron-specific Enolase|神経特異エノラーゼ [/S] Occult Blood|潜血反応(便)/グアヤック法/o-トリジン法/ラテックス凝集法 [/F, /Gastric Material] Ornithine|オルニチン [/P] Parathyroid Hormone|副甲状腺ホルモン [/P] Pepsinogen|ペプシノゲン [/S] Pepsinogen I|ペプシノゲンI/血清ペプシノゲンI [/S, /U] Pepsinogen II|ペプシノゲンII/血清ペプシノゲンII [/S] pH|尿pH [/Gastric Material, /Gastric Material] Phenylalanine|フェニルアラニン [/P] Proline|プロリン [/P] ProMetalloproteinase-2 [/S] ProMetalloproteinase-9 [/S] Pseudouridine|シュードウリジン [/U] Putrescine|ポリアミン/プトレッシン [/U] Pyruvate [/B] Retinol-binding Protein|レチノール結合蛋白 [/S] Sialyl-Tn Antigen|シアリルTn抗原 [/S] Sialyltransferase [/S] Soluble CD44+ [/S] Soluble Interleukin-2 Receptor|可溶性 IL-2レセプター/IL-2レセプター/可溶性 IL-2受容体 [/S] Spermidine|スペルミジン [/U] Spermine|スペルミン [/U] Superoxide Dismutase|スーパーオキサイドディスムターゼ/スーパーオキサイドジスムターゼ [/B] Tennessee Antigen [/S] Tissue Factor Pathway Inhibitor [/P] Tissue Polypeptide Antigen|組織ポリペプチド抗原 [/S] Transthyretin|トランスサイレチン/プレアルブミン [/S] Tumor-associated Glycoprotein-72 [/S] Tumor-associated Trypsin Inhibitor [/S] Urokinase Plasminogen Activator|ウロキナーゼプラスミノゲンプロアクチベータ [/Tissue] Valine|バリン [/P] Vitamin B12|ビタミンB12/コバラミン/シアノコバラミン [/S] Zinc|亜鉛 [/S] α1-Acid Glycoprotein|α1-酸性糖蛋白/オロソムコイド/α1アシドグリコプロテイン [/S] α1-Antichymotrypsin|α1-アンチキモトリプシン [/S] β-Chorionic Gonadotropin|ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット [/P] β-Glucuronidase|β-グルクロニダーゼ [/Gastric Material] β-Hexosaminidase|β-ヘキソサミニダーゼ [/S] |
関連する検査の読み方 |
【CBC】 慢性失血による貧血を認める。40歳を超えた男性患者の鉄欠乏性貧血は本症診断の大きな手がかりになる。 【CEA】 早期発見の有用性はないが、術前検査として使われることがある。また、フォローアップ検査として有用性があるといわれている。転移のある患者の40~50%で基準値を上回る。CEAは大腸癌から分離された分子量18~20万の糖蛋白で、胎児消化器粘膜と共通の抗原性がある。生理的には細胞間接着因子として癌細胞同士の接着に関与していると考えられている。CEAは皮膚、食道、胃、大腸、膵、乳腺、肺胞、気管支、甲状腺、胆嚢、胆管、尿管などの正常組織でも発現しているが、血中には極めて小量しか移行しない。しかし、癌細胞でCEAの産生が増加すると血中CEA量は増加する。また、健常者や良性疾患でも陽性を示すことがあるので、スクリーニングには適していない。臨床的には癌の治療効果判定、再発予知、進展度推定などに用いられる。 【CEA mRNA】 転移再発・腹膜播種で陽性になる。 【ペプシノゲンI】【ペプシノゲンII】 Iが70ng/mL以下で、かつI:II比が3以下なら陽性。Iが30ng/mL以下で、かつI:II比が2以下なら強陽性とする。PGはペプシンの前駆物質で99%は胃内に、1%が血中に放出される。ペプシノゲンIは胃底腺で、IIは胃粘膜で産生される。胃癌に対する陽性反応的中率(陽性者で胃癌が発見された率)は1.5%とされPG I≦70ng/dlかつPG I:PG II比≦3の患者は胃癌のハイリスクとして定期的な上部消化管内視鏡検査を行うのが原則である。 【ヘリコバクター・ピロリ】 多くの場合陽性である。迅速ウレアーゼ試験、尿素呼気試験を行う。抗ヘリコバクター・ピロリ抗体は健常中高年の60~70%が陽性である。 【Sialyl-Tn Antigens】 増加する。STNは正常人の睾丸Lydig細胞、結腸のGoblet細胞、胃のParietal細胞や毛細血管内皮に存在し発育分化抗原としての意義を持つとされるが、なぜ癌細胞で増加するかについては諸説がある。臨床的には卵巣癌と消化器癌で高値を示す特徴があり、卵巣癌では40~50%の陽性率を示し偽陽性が少ない。また胃癌、大腸癌、膵癌でも20~40%の陽性率を示す。このマーカーは早期癌での有用性は低いが、進行癌の経過観察に有用といわれる。 【DU-PAN-2】 増加することがある。DU-PAN-2はヒト膵癌細胞株を免疫原とするモノクローナル抗体に認識されるムチン様糖蛋白で膵癌、胆道癌、肝細胞癌で陽性率が高いマーカーである。良性疾患では急性肝炎、慢性活動性肝炎、肝硬変や胆道疾患で陽性になる。臨床的には膵癌、胆道系癌のスクリーニング、診断、術後経過観察に用いられる。膵癌ではSLX、CA19-9、CEAを同時に測定することで診断率が上昇する。 【AFP】 高値の患者の70%は治療が困難といわれる。 【KMO-1】 増加する。ヒト大腸癌細胞株を免疫原として作成された糖鎖性の腫瘍マーカーで、本体はCA19-9,CA50,Span-1に類似している。臨床的には膵癌、胆道系の癌を疑う場合に測定する。膵癌、胆嚢・胆管癌での陽性率は約70%でCA19-9とほぼ同じであるが、肝癌では60%でCA19-9より陽性率は高い。 【NCC-ST-439】 増加することがある。NCC-ST-439はヒト胃腺癌細胞株を免疫原にして作られたモノクローナル抗体が認識する糖鎖抗原で、膵癌、胆道癌、乳癌、大腸癌、肝癌、胃癌など消化器に発生する腺癌で陽性となるが、臓器特異性は乏しい。 【p53遺伝子】 遺伝子変異を認める。p53遺伝子の変異はヒトのあらゆる組織の腫瘍で認められる。変異は多くの場合17番染色体短腕(17p)の一方のアレル欠失と点突然変異である。この遺伝子の変異はヒトのあらゆる組織由来の腫瘍で認められ、臨床的には癌の悪性度の評価や予後推定に有用である。 【Span-1】 軽度~中等度に増加することがある。SPan-1はヒト膵癌細胞株を免疫原として作成されたモノクローナル抗体が認識する糖鎖抗原でCA19-9、CA50、KMO-1と類似している。臨床的には膵癌(陽性率約80%)、胆道癌(約70%)、肝癌(約50~60%)の治療効果判定や経過観察に用いる。良性疾患での偽陽性が認められるが、多くは低値であることから、良性膵疾患と膵癌の鑑別に用いられることもある。 【YH-206抗原】 治療効果判定に用いる。YH-206抗原は肺腺癌細胞株A-549を免疫原として作製されたモノクローナル抗体YH-206で検出される分子量の大きなムチン抗原で、エピトープは糖鎖であると考えられる。抗原決定基はノイラミダーゼ抵抗性で、CA 19-9,CA 125,CA 50などのムチン抗原と異なっている。またX,Yハプテン,T抗原などの血液型糖鎖とも異なっている。ムチン抗原であるため腺癌での発現率が高く胃癌および膵癌の治療効果のモニターとして有用である。 【α2-マクログロブリン】 増加することがある。 【アルドラーゼ】 中等度に増加しアイソザイムはA型が優位である。 【胃液一般検査】 胃酸低下症を認め、多くの患者は刺激試験でも無酸症を呈する。 【胃生検】【胃細胞診】 内視鏡下での生検・細胞診で診断を確定する。 【ガストリン刺激試験】 BOA:2mEq/時未満、MAO:9mEq/時未満で分泌が低下する。 【血液型検査】 抗A、抗B血清が中和されオモテ・ウラ試験が不一致になることがある。 【抗胃壁細胞抗体】 陽性である。胃壁細胞はガストリン、ヒスタミン、アセチルコリンの刺激を受け胃酸分泌を行う細胞で、胃主細胞に次いで多い細胞である。この胃壁細胞に対する自己抗体がPCAで悪性貧血と萎縮性胃炎が疑われる場合に測定される。特に悪性貧血では、この抗体と内因子抗体が産生される。抗胃壁細胞抗体の陽性率は75~100%と高いが健常者でも10%以下、高齢者では10~15%程度である。この抗体が陰性で、かつ血清ペプシノゲン値が低値の場合は胃癌のリスクが高いという報告があるので注意する。 【サイトケラチン19フラグメント】 高値になることがある。 【膵炎関連蛋白】 軽度に増加する。 【スーパーオキサイドディスムターゼ】 増加する。 【フェリチン】 増加することがある。 【糞便一般検査】 潜血反応が陽性である。 【尿沈渣】 膀胱転移例で異型細胞(腺癌細胞)を認めることがある。 |
検体検査以外の検査計画 | 内視鏡検査、胃X線検査、超音波検査、胸部・腹部CT検査、骨盤CT検査(女性)、MRI検査、超音波内視鏡検査、PET検査 |