疾患解説
| フリガナ | キュウセイジンフゼン |
| 別名 | |
| 臓器区分 | 腎・泌尿器疾患 |
| 英疾患名 | Acute Renal Failure |
| ICD10 | N17.9 |
| 疾患の概念 | 何らかの疾患、外傷、腎毒性物質により、数日から数週間で急激に糸球体濾過量が低下し、結果として尿素窒素やクレアチニンが増加し、水、電解質、酸塩基平衡の破綻を来し、生体の恒常性が維持出来なくなった状態で、原因は1.腎実質の障害を伴わない腎低潅流を引き起こす疾患(腎前性急性腎不全、腎前性高窒素血症)2.腎実質を直接障害する疾患(内因性腎性急性腎不全、腎性高窒素血症)3.尿路閉塞に関連する疾患(腎後性急性腎不全、腎後性高窒素血症)に分けられる。 |
| 診断の手掛 | 体重増加と末梢の浮腫で始まり、進行する食欲不振、悪心、嘔吐が見られたら本症を疑う。症状は尿素窒素の蓄積につれて多様になり、重症化するので慎重な経過観察が重要である。48時間以内に血清クレアチニン値が0.3mg/dL以上上昇するか、数週あるいは数ヶ月で同様の上昇が見られれば、急性腎不全としてよい。 |
| 主訴 |
意識障害|Memory impaiment 嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 起座呼吸|Orthopnea 痙攣発作|Seizures/Convulsion/Convulsive seizure 下血|Melena 高血圧|Hypertension 呼吸困難|Dyspnea 昏睡|Coma 昏迷|Stupor 紫斑|Purpura 出血傾向|Bleeding tendency/Hemorrhagic diathesis 消化管出血|Gastrointestinal bleeding 食欲不振|Anorexia 頭痛|Headache/Cephalalgia 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 脱力感|Weekness 貧血症状|Anemic symptom 浮腫|Edema/Dropsy 不整脈|Arrhythmia 乏尿|Oliguria 無尿|Anuria |
| 鑑別疾患 |
肝不全|Hepatic Failure 急性心筋梗塞|Acute Myocardial Infarction(AMI) 高血圧症|Hypertension 心外膜炎 脱水症|Dehydration 多発性骨髄腫|Multiple Myeloma 毒素性ショック症候群|Toxic Shock Syndrome(TSS) 熱傷 播種性血管内凝固症候群|Disseminated Intravascular Coagulation(DIC) 慢性腎不全|Chronic Renal Failure レプトスピラ症/ワイル病 薬剤性腎障害 過粘稠度症候群 血栓性血小板減少性紫斑病|Thrombotic Thrombocytopenic Purpura(TTP) コレラ|Cholera 水腎症|Hydronephrosis 溶血性尿毒症症候群|Hemolytic Uremic Syndrome(HUS) 高K血症|Hyperkalemia 急性下痢 |
| スクリーニング検査 |
Albumin|アルブミン [ Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [ Amylase|アミラーゼ [ Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [ Calcium|カルシウム [ CEA|癌胎児性抗原 [ Creatinine|クレアチニン [ Eosinophils|好酸球 [ Erythrocytes|赤血球数 [ GFR|糸球体濾過量 [ Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [ Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [ Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [ Iron|鉄/血清鉄 [ Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [ LDL-Cholesterol|LDL-コレステロール/低比重リポ蛋白コレステロール [ Leukocytes|白血球数 [ Magnesium|マグネシウム [ Neutrophils|好中球 [ Phosphate|無機リン [ Platelets|血小板 [ Potassium|カリウム [ Protein-Total|総蛋白/血清総蛋白/血清蛋白定量 [ Sodium|ナトリウム [ Triglycerides|トリグリセリド/中性脂肪/トリグリセライド/トリアシルグリセロール [ Urea Nitrogen|尿素窒素 [ Uric Acid|尿酸 [ |
| 異常値を示す検査 |
1,25-Dihydroxy Vitamin D3|1,25-ジヒドロキシビタミンD3/1α,25-ジヒドロキシビタミンD/活性型ビタミンD [ 17-Hydroxycorticosteroids|17-ヒドロキシコルチコステロイド [ 17-Ketogenic Steroids|17-ケトジェニックステロイド [ 25-Hydroxy Vitamin D3|25-ヒドロキシビタミンD3 [ Adenosine Monophosphate|アデノシン一リン酸/アデニル酸 [ Aldosterone|アルドステロン [ Amino Acids|アミノ酸分析/アミノ酸41分画 [ Ammonia|アンモニア [ Amylin|膵島アミロイドポリペプチド/アミリン [ Angiotensin-converting Enzyme|アンギオテンシン変換酵素 [ Bicarbonate|血漿HCO3-濃度/重炭酸イオン [ Carbon Dioxide Partial Pressure|動脈血CO2分圧/炭酸ガス分圧/CO2分圧/PCO2/PaCO2 [ Carnitine|カルニチン分画/ビタミンBT [ Cortisol|コルチゾール [ Creatine|クレアチン [ Cystatin C|シスタチンC [ Endothelin|エンドセリン [ Endothelin-1|エンドセリン [ Epidermal Growth Factor|上皮細胞増殖因子/上皮細胞成長因子 [ Erythrocyte Casts|円柱 [ Free Fatty Acids|遊離脂肪酸/非エステル型脂肪酸/FFA [ Fetal Antigen 1 [ Fibrin and Fibrinogen Degradation Products|フィブリン・フィブリノゲン分解産物/線維素分解産物 [ Gastrin|ガストリン [ Glucagon|グルカゴン/膵グルカゴン [ Glucose Tolerance|ブドウ糖負荷試験/グルコース負荷試験 [ Growth Hormone|成長ホルモン [ Homocysteine|ホモシステイン/ホモシスチン/総ホモシステイン [ Laminin|ラミニン [ Lipase|リパーゼ/膵リパーゼ [ L-FABP|L型脂肪酸結合蛋白 [ Mean Platelet Volume|平均血小板容積 [ Neutrophil Gelatinase-associated Lipocalin [ Osmolality|浸透圧 [ Osteocalcin|オステオカルシン [ Parathyroid Hormone|副甲状腺ホルモン [ pH|尿pH [ Phenytoin|フェニトイン [ Progesterone|プロゲステロン/プロジェステロン [ Plasma Renin Activity|活性型レニン/血漿レニン活性/総レニン [ Specific Gravity|比重(尿)/尿比重 [ Sulfate [ Troponin I|心筋トロポニンI/トロポニンI [ Troponin T|心筋トロポニンT/トロポニンT [ Viscosity|血液粘稠度/血液流体特性検査/血液流体変動能検査 [ Vitamin A|ビタミンA/レチノール [ Vitamin E|ビタミンE/トコフェロール/α-トコフェロール [ Volume [ 131 I Uptake|131 I摂取率/放射性ヨウ素摂取率 [ β-Glucuronidase|β-グルクロニダーゼ [ β-Hexosaminidase|β-ヘキソサミニダーゼ [ β2-Macroglobulin [ β2-Microglobulin|β2-ミクログロブリン/β2-マイクログロブリン [ |
| 関連する検査の読み方 |
【クレアチニン】 頻回に測定すると原因を検索する有用な目安となる。 【L型脂肪酸結合蛋白】 近位尿細管に由来するので著しく増加する。脂肪酸結合蛋白は細胞内のエネルギー代謝、脂質代謝、疎水性リガンドの輸送を担当している蛋白で、複数のサブタイプがある。このうち、L-FABPは腎の近位尿細管に特異的に発現している。近位尿細管で再吸収された遊離脂肪酸は、L-FABPにより細胞内のミトコンドリアに運ばれエネルギー産生に用いられる。しかし、腎尿細管周囲の血流が低下すると遊離脂肪酸は細胞毒性を持つ過酸化脂質に変換され、この過酸化脂質を尿中に排泄するためL-FABPが結合する。すなわち、L-FABPが尿中に増加したことは、尿細管に酸化ストレスが存在することになり、腎組織障害の危険があることになる。臨床的には腎疾患早期の予測マーカーや腎機能のモニタリングとして用いる。 【シスタチンC】 GFRが低下すると増加する。Cys Cは体内の全ての有核細胞で産生され、他の蛋白質などの影響を受けることなく腎糸球体から濾過され近位尿細管で再吸収される。この物質は糸球体濾過量(GFR)が減少すると血中濃度が上がるため、新しい糸球体濾過量のマーカーとして注目されている。GFRマーカーとしては血清クレアチニンがあるが、血清クレアチニン値はGFRが30mL/min程度に低下する頃から上昇するが、Cys Cは70mL/min程度に低下した時点で増加する。このため、クレアチニンのブラインド領域がカバーできる利点があるとされている。またこの検査は24時間クレアチニンクリアランスと同等の腎機能障害の指標になる。 【尿一般検査】 赤血球は下部尿路あるいは糸球体由来である。好酸球増加が急性間質性腎炎で認められる。白血球と白血球円柱が増加し軽微な蛋白尿を認める。尿比重は1.025以上である。 【尿沈渣】 硝子円柱内白血球がみられたら腎実質の感染を示す。ミオグロビン円柱の存在はミオグロビン尿症を示す。細胞円柱や色素性顆粒円柱が出現すれば急性尿細管壊死の証拠である。赤血球円柱が糸球体腎炎、血管炎、微小塞栓状態でみられる。 【ナトリウム排泄率】 急性尿細管壊死症例の90%が1%以上。1%以下なら腎前性急性腎不全を示唆する。腎で濾過されたNaと排泄されたNaの比率を示す。Naは正常では尿細管で99%以上再吸収されるので、尿への排泄量は1%以下となる。腎不全や急性尿細管壊死ではNaの再吸収障害により尿中へのNaの排泄量が増加する。 【早期 Ca】 低Ca血症を認めることがある。 【早期 UN・クレアチニン・尿酸】 UNは20mg/dL/日以下の増加、挫滅があれば50mg/dL/日の増加。クレアチニンと尿酸も増加する。 【早期 アシドーシス】 代償性アシドーシスを認める。 【早期 アミラーゼ・リパーゼ】 ともに膵炎が無くとも増加することがある。 【早期 尿検査】 尿は血性、比重は赤血球と蛋白により上昇する。尿Naは通常50mEq/L以上である末梢白血球は感染が無くとも増加する。 【早期 尿量】 発症後2週間以内はしばしば50mL/日以下。24時間以上の無尿は異常である。 【早期 無機リン・クレアチニン】 両者の不均衡な増加は組織壊死を示す。 【第2週 CBC】 貧血が出現し、血小板が減少してしばしば出血傾向が認められる。 【第2週 Na・K・Cl】 Kは増加する。Naは細胞外液量の増加によりしばしば低下する。 【第2週 UN】 利尿開始後も数日間増加を続け、高窒素血症が増悪する。 【第2週 アシドーシス】 アシドーシスが増悪する。 【第2週 尿検査】 発症後数日で透明になり尿量も増加する。尿量が400mL/日になれば尿細管回復の証拠で、2週以内に1,000mL/日になる。赤血球とへマチン円柱が出現する。 【後期 腎血流量・GFR】 GFRは通常完全に正常化することはない。 【後期 蛋白尿】 尿蛋白が3~4g/L以上で高窒素血症があり、利尿を伴わなければ皮質壊死を疑う。 【後期 尿量】 48時間以上にわたり無尿があれば尿路閉塞、両側腎血管の血栓か塞栓、皮質壊死あるいは急性糸球体腎炎を疑う。 【後期 貧血】 貧血が数週間から数ヶ月続く。 【後期 乏尿】 利尿期に再発性乏尿と高窒素血症の進行があれば尿路閉塞を疑う。 【利尿期 Ca】 筋障害の患者では高Ca血症を認めることがある。 【利尿期 K・尿Na】 Kは尿中に大量に排泄されるため低下、尿Naは50~75mEq/Lになる。 【利尿期 Na・Cl】 水分補給が不十分だと利尿による脱水のため増加する。 【利尿期 UN】 UNの高値は利尿開始後1~3週で解消する。 |
| 検体検査以外の検査計画 | 胸部X線検査、腎超音波検査、非造影CT検査、MRA検査、心電図検査 |