疾患解説
フリガナ |
ウイルスセイカンエン |
別名 |
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臓器区分 |
消化器疾患
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英疾患名 |
Viral Hepatitis
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ICD10 |
B19.9
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疾患の概念 |
この疾患は、肝親和性ウイルスの感染による、肝臓のびまん性炎症である。肝炎ウイルスとして確認されているA,B,C,D,E型の5種類のウイルスが原因で発症する。原因ウイルスは、A型が10%、B型が40%、C型が10%とされている。非肝炎ウイルス(Epstein-Barr virus、Cytomegalovirusなど)感染は一般的にウイル性肝炎とは呼ばない。肝炎ウイルスの特徴的としては:1.HAV:しばしば黄疸を引き起こさず、何の症状もみられないこともある。急性感染後に、ほぼ全例でウイルスは消失するが、早期再発がみられることもある。2.HBV:無症状キャリアの状態から、重度の肝炎や急性肝不全まで幅広い一連の肝疾患を引き起こす。感染者全体の5~10%が、慢性肝炎を発症するか非活動性キャリアとなる。肝硬変が発生する可能性があり慢性感染症では肝硬変が先行しない場合でも最終的に肝細胞癌を発症することがある。3.HCV:急性感染期には無症状であるが、約75%が慢性化する。結果として生じる慢性肝炎は、通常は無症状であるが、20~30%の患者が肝硬変に進行する。肝硬変の出現までには、しばしば数十年を要する。肝硬変の結果として肝細胞癌が生じうるが、肝硬変のない慢性感染による肝細胞癌は稀である。4.HDV:非常に重度の急性HBV感染症と同時感染として、慢性HBVキャリアの急性増悪(重複感染)として、あるいは比較的急速に進行する慢性HBV感染症として発症する。E型肝炎とA型肝炎を除くウイルス性肝炎は、4類感染症である。
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診断の手掛 |
感冒様症状で始まる食欲不振、悪心、嘔吐、発熱、右上腹部痛を訴える患者を診たら本症を疑う。症状が消失する時期に黄疸が見られ、同時に全身症状が消退する。黄疸期には肝腫大があるが、しばしば脾腫を伴うので触診で確かめる。この疾患は次のような臨床経過をたどる。1.潜伏期:症状を引き起こすことなく、ウイルスが複製され拡散する。2.前駆期(黄疸前期):著明な食欲不振、全身倦怠感、悪心および嘔吐などがあり、タバコをまずく感じるようような非特異的な症状がみられる。しばしば発熱や右上腹部痛を訴える。HBV感染症では蕁麻疹と関節痛がみられることがある。3.黄疸期:3~10日後に尿が暗色になり黄疸が起こる。この時期に全身症状は、しばしば消退し黄疸が悪化するにもかかわらず、患者は気分がよくなる。肝は腫大して圧痛がみられるが、辺縁は軟らかく滑らかなままである。15~20%の患者で軽度の脾腫が生じる。黄疸は通常1~2週間以内に最も顕著となる。4.回復期:この2~4週間の期間で黄疸は消失する。
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主訴 |
意識障害|Memory impaiment 黄疸|Jaundice 嘔吐|Vomiting 悪心|Nausea 肝腫大|Hepatomegaly 季肋部痛|Hypochondralgia 紫斑|Purpura 出血傾向|Bleeding tendency/Hemorrhagic diathesis 食欲不振|Anorexia 上腹部痛|Upper abdominal pain 全身倦怠感|General malaise/Fatigue 着色尿|Chromaturia 発熱|Pyrexia/Fervescence/Fever 脾腫|Splenomegaly 腹痛|Abdominal pain 右季肋部痛|Pain in the right hypochondrium/Right Hypochondralgia
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鑑別疾患 |
アルコール依存症|Alcoholism 肝硬変|Cirrhosis of Liver 肝性昏睡 そう痒症 薬剤(アセトアミノフェン) 溶血性貧血 閉塞性黄疸 薬剤性肝障害|Drug-induced Liver Injury(DILI) 住血吸虫症|Schistosomiasis 妊娠高血圧症候群|Pregnancy-induced Hypertension 自己免疫性肝炎|Autoimmune Hepatitis 肝細胞癌|Hepatocellular Carcinoma/Hepatoma
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スクリーニング検査 |
α-Fetoprotein|α-フェトプロテイン [/S] Albumin|アルブミン [/S, /U] Alkaline Phosphatase|アルカリホスファターゼ/アルカリ性ホスファターゼ [/S, /WBC] Alanine Aminotransferase|アラニンアミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ [/S] Amylase|アミラーゼ [/S] Anti-Streptolysin O|抗ストレプトリジンO価/抗ストレプトリジン抗体 [/S] Aspartate Aminotransferase|アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ [/S] Bilirubin-Direct|直接ビリルビン/抱合型ビリルビン [/S] Bilirubin-Indirect|間接ビリルビン/非抱合型ビリルビン [/S] Bilirubin-Total|総ビリルビン/ビリルビン [/F, /F, /S, /U] CEA|癌胎児性抗原 [/S] Cholesterol|総コレステロール/コレステロール/コレステリン [/S, /RBC] Cholinesterase|コリンエステラーゼ/ブチルコリンエステラーゼ/偽コリンエステラーゼ [/S] Erythrocyte Sedimentation Rate|赤血球沈降速度 [/B] Ferritin|フェリチン [/S] Glucose|グルコース/血糖/ブドウ糖 [/S] Hematocrit|ヘマトクリット/赤血球容積率 [/B] Hemoglobin|ヘモグロビン/血色素量 [/B] Hepatitis B Surface Antigen|HBs抗原 [/S] Immunoglobulin A|免疫グロブリンA [/S] Immunoglobulin G|免疫グロブリンG [/S] Immunoglobulin M|免疫グロブリンM/マクログロブリン [/S] Iron|鉄/血清鉄 [/S] Leucine Aminopeptidase|ロイシンアミノペプチダーゼ [/S] Lactate Dehydrogenase|乳酸デヒドロゲナーゼ [/S] Leukocytes|白血球数 [/B] Lymphocytes|リンパ球 [/B, /B] Magnesium|マグネシウム [/RBC, /S] Monocytes|単球 [/B] Platelets|血小板 [/B] Prothrombin Time|プロトロンビン時間 [/P, /P] Rheumatoid Factor|リウマチ因子測定/RAゼラチン凝集反応/リウマチ因子定量 [/S] Thyroxine (T4)|総サイロキシン/総T4/サイロキシン/チロキシン [/S] TIBC|総鉄結合能 [/S] Tri-Iodothyronine (T3)|総トリヨードサイロニン/総T3/トリヨードサイロニン/トリヨードチロニン [/S] Triglycerides|トリグリセリド/中性脂肪/トリグリセライド/トリアシルグリセロール [/S] Uric Acid|尿酸 [/S, /U] α1-Globulin|α1-グロブリン [/S] α2-Globulin|α2-グロブリン [/S, /S] β-Globulin|β-グロブリン [/S] γ-Globulin|γ-グロブリン [/S] γ-Glutamyltranspeptidase|γ-グルタミルトランスペプチダーゼ/γ-グルタミルトランスフェラーゼ [/S]
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異常値を示す検査 |
2-5AS|2-5A合成酵素/2-5オリゴアデニレートシンターゼ [/S] 5'-Nucleotidase|5'-ヌクレオチダーゼ [/S] Adenosine Deaminase|アデノシンデアミナーゼ [/S] Aldolase|アルドラーゼ/アルドラーゼアイソザイム [/S] Alkaline Phosphatase Isoenzymes|アルカリホスファターゼアイソザイム/ALPアイソザイム [/S] Amino Acids|アミノ酸分析/アミノ酸41分画 [/U] Anti-Gliadin IgG Antibodies|抗グリアジン抗体 [/S] Anti-Mitochondrial Antibodies|抗ミトコンドリア抗体 [/S] Anti-Neutrophil Cytoplasm Antibodies|抗好中球細胞質プロテナーゼ-3抗体/抗好中球細胞質抗体/好中球細胞質抗体/C-ANCA/PR-3ANCA [/S] Anti-Smooth Muscle Antibodies|抗平滑筋抗体 [Positive/S] Antinuclear Antibodies|抗核抗体 [/S] Bile Acids|総胆汁酸 [/S] Biotin|ビオチン [/S] BSP Retention|BSP test/ブロムサルファレイン試験 [/S] CA 125|CA125 [/S] CA 19-9|CA19-9 [/S] CA 27-29 [/S] CA 72-4|CA72-4 [/S] Carbon Dioxide Partial Pressure|動脈血CO2分圧/炭酸ガス分圧/CO2分圧/PCO2/PaCO2 [/B] CD4+ Lymphocytes [/B] CD8+ Lymphocytes [/B] Chenodeoxycholic Acid|ケノデオキシコール酸 [/S] Cholesterol Esters|エステル型コレステロール/コレステロールエステル [/S] Cholic Acid [/S] Cold Agglutinins|寒冷凝集反応/寒冷血球凝集反応 [/S] Copper|銅 [/S] Copper Zinc Superoxide Dismutase|スーパーオキサイドディスムターゼ/スーパーオキサイドジスムターゼ [/S] Coproporphyrin|コプロポルフィリン [/U] Cryomacroglobulins [/S] Cytokeratin 19 Fragment|サイトケラチン19フラグメント/シフラ/シフラ21-1/CYFRA [/S] Endothelin-1|エンドセリン [/P] Factor V|第V因子活性/不安定凝固因子/プロアクセレリン/Acグロブリン [/P] Fat|脂肪(糞便) [/F] Folate|葉酸/プテロイルモノグルタミル酸/ビタミンM/乳酸菌発育因子 [/S] Glucaric Acid [/U] Glucose Tolerance|ブドウ糖負荷試験/グルコース負荷試験 [/S] Glycated Protein|糖化蛋白 [/S] Granular Casts|円柱 [/U] Hyaluronic Acid|ヒアルロン酸 [/S] Hepatitis C Antibodies|C型肝炎ウイルス抗体/C100-3抗体/抗C型肝炎ウイルス抗体 [/S] IgM Anti-HAV|HA-IgM抗体/A型肝炎初期抗体/IgM-HA抗体/抗HA-IgM抗体 [/S] Interleukin-1α [/S] Interleukin-1β|インターロイキン-1β [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzyme-5|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S] Lactate Dehydrogenase Isoenzymes|乳酸デヒドロゲナーゼアイソザイム/LDアイソザイム [/S, /S] Lecithin|レシチン/ホスファチジルコリン [/RBC] Leucine|ロイシン [/P] Lipase|リパーゼ/膵リパーゼ [/S] Lipoprotein Lp (a)|リポ蛋白(a)/リポプロテイン(a) [/S] Macrophage Colony Stimulating Factor|マクロファージコロニー刺激因子 [/S] Malate Dehydrogenase|リンゴ酸脱水素酵素 [/S] Manganese|マンガン [/S] Manganese Superoxide Dismutase [/S] Monokine induced by Interferon-γ [/CSF] Mucoprotein|ムコ蛋白/酸可溶性蛋白 [/S] Nickel|ニッケル [/S] Ornithine Carbamoyl Transferase|オルニチンカルバミルトランスフェラーゼ [/S] Phenylalanine|フェニルアラニン [/P] Phospholipids|リン脂質 [/S, /S] Porphyrins, Total|ポルフィリン [/U] Procollagen Type IV Peptide [/S] Reticulocytes|網赤血球/レチクロサイト/網状赤血球数 [/B] Soluble HLA-I [/S] Specific Gravity|比重(尿)/尿比重 [/U] Superoxide Dismutase|スーパーオキサイドディスムターゼ/スーパーオキサイドジスムターゼ [/B] Taurine|タウリン/アミノエチルスルホン酸 [/P] Thyroxine Binding Globulin|サイロキシン結合グロブリン/チロキシン結合グロブリン [/S] Transthyretin|トランスサイレチン/プレアルブミン [/S] Tumor Necrosis Factor-α|腫瘍壊死因子-α [/CSF, /S] Tumor Necrosis Factor-β|腫瘍壊死因子-β/リンホトキシン [/CSF] Tyrosine|チロシン [/P] Urobilinogen|ウロビリノゲン定性(尿) [/F, /U] Valine|バリン [/P] Vitamin A|ビタミンA/レチノール [/S] Vitamin B12 Binding Capacity, Unsaturated [/S] VLDL-Cholesterol [/S] Zinc|亜鉛 [/S] α1-Acid Glycoprotein|α1-酸性糖蛋白/オロソムコイド/α1アシドグリコプロテイン [/S] α1-Antitrypsin|α1-アンチトリプシン [/S] α2-Macroglobulin|α2-マクログロブリン [/S] β-Hexosaminidase|β-ヘキソサミニダーゼ [/S] β2-Macroglobulin [/S] β2-Microglobulin|β2-ミクログロブリン/β2-マイクログロブリン [/S] δ-Aminolevulinic Acid|δ-アミノレブリン酸(尿)/5-アミノレブリン酸 [/U]
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関連する検査の読み方 |
【前駆期 AST・ALT】 黄疸出現前に増加し、500IU/Lを超える。 【前駆期 ウイルスマーカー】 陽性である。 【前駆期 黄疸】 黄疸出現の直前に尿ウロビリノゲンが出現し、血清ビリルビンが増加する。 【前駆期 白血球】 リンパ球低下や好中球低下がみられ、続いて相対的リンパ球と単球が増加する。 【前駆期 ビリルビン】 血清ビリルビンが高値でなる前にビリルビン尿が出現する。 【急性黄疸期 AST・ALT】 黄疸出現後数日で低下し始め、2~3週後には基準範囲内になる。 【急性黄疸期 AST・ALT・LD】 ALT>AST>LDである。 【急性黄疸期 赤沈】 亢進するが回復とともに低下する。 【急性黄疸期 尿ウロビリノゲン】 黄疸初期に増加し、黄疸ピーク時には尿・糞便ともに一時消失する。 【急性黄疸期 ビリルビン】 病初期は50~75%が直接型、その後間接型が増加する。 【寛解期 尿ウロビリノゲン】 増加する。 【寛解期 尿ビリルビン】 血清ビリルビン増加中に消失する。 【寛解期 尿量】 利尿に傾く。 【寛解期 ビリルビン】 3~6週で基準範囲内に入る。 【2-5AS】 高値になる。2-5ASはインターフェロンが細胞膜に結合した際に誘導される酵素で、mRNAを分解し蛋白質合成を低下させる作用があり細胞やウイルスの蛋白合成を阻害する。また、ウイルス感染により免疫担当細胞で産生されるためウイルス感染初期の生体防御機構としても働いている。臨床的にこの酵素はインターフェロン療法をする際の生体反応の指標としてHBV-DNAと共に測定される。 【抗平滑筋抗体】 強陽性になる。ASMAは筋蛋白成分の一つであるアクチンに対する自己抗体で臓器特異性はない。臨床的には急性ウイルス性肝炎や自己免疫の関与が疑われる慢性活動性肝炎などで抗体価が高値を示す。 【血液像】【異型リンパ球】 異型リンパ球を認める。異型リンパ球は伝染性単核球症や風疹などで出現する異常リンパ球の総称で、正常でも見られることがあるが、0.5%を超えない。形態学的には大リンパ球様、単球様、形質細胞様、核小体を持つ幼若型の4種に分けられ、病期により型が変化する特徴がある。抗原刺激を受けて幼若化したリンパ球が末梢血中に遊出してきたものと考えられている。 【リンパ球刺激試験】 PHAとConAが低値である。
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検体検査以外の検査計画 |
腹部超音波検査、腹部CT検査
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